このブログでも何回か書かせていただいていますが、通常の動物病院の方が優れているとか、往診の動物病院の方がいい治療が行えるとかというわけではなく、おのおのの得意分野が異なるのだとぼくは思っています。
このブログは往診を行っている獣医師として書かせていただいているので、当然記事は往診よりの記事が多いと思いますが、実際には往診では十分に診察できない、もしくは治療すらできない病気もあります。
ぼくは20年近く都内の病院で勤務医として現在も診療を行っていますので、通常の動物病院で診察している獣医として、これはちょっと往診ではできないだろうなという治療も日々診させていただいています。
今回はそんな臨床医の立場から、往診には不向きな病気をいくつかご紹介したいと思います。
外科症例を伴うもの
当然と言えば当然の話ですが、外科手術が必要な疾患は往診では対応ができません。
小さなしこりをとる程度であれば局所麻酔で対応することが出来るので、往診でも可能です。
ですが、整形手術や開腹が必要な手術においては、通常の動物病院にて受診を受けていただくことをお勧めします。
そのかわり、高齢だからとか健康状態があまりよくないなどの理由で手術を回避し、ご自宅で看取ってあげようと考えている飼い主様であれば、そのお手伝いは十分できると思います。
静脈点滴が必要な内科治療
基本的に往診では、獣医師が逐一動物を観察しているわけではなく、ご自宅で飼い主様に状況を確認していただくことになります。
動物に薬を投薬する場合、口からの投薬や注射よりも血管内に直接薬剤を投与する方が効果が早く、そして強く現れます。
その分、副反応も出やすいため、投薬後は十分注意して観察しないといけません。
また静脈点滴も、他人の様に短時間で大量にながすのは一般的ではなく、むしろ長時間かけてゆっくりと薬剤を流していきます。
その間は、こまめに流速を変更したり、また薬剤の量を調整したりする必要があるため、往診の治療では不向きだと思います。
まれに、自宅でできる限りの治療を受けさせたいと考えている飼い主様には、点滴を流す機械などをお貸しすることはありますが、あまりお勧めはしていません。
常時血液検査のモニターが必要な内科治療
糖尿病などの疾患や重度の下痢嘔吐をともなう消化器疾患、膵炎などの治療、腎不全の末期などは、集中的な治療を行った場合、日に何度か採血を行い、体の電解質や脱水の具合などをこまめに観察する必要があります。
往診でも血液検査は可能ですが、すぐに結果が出るわけでもなく、また一日何回も採血するこは実際には不可能に近いと思います。
こういった症例で積極的な治療を望まれるのであれば、ストレスや負担は承知の上でも、動物病院の中で集中管理したほうがいいと思います。
個人的な意見を言えば、ペットが受けるストレスは飼い主の皆様がご心配していることですが、そうも言ってられない状態の時も多くあります。
ストレスだけを優先し、結果として病気が治らないケースも多くあるので、必要であれば冷静に治療を優先するべきだと思います。
心疾患
心疾患はこまめな画像診断と血液検査が必要です。
犬で多いのが僧帽弁閉鎖不全症、猫で多いのが肥大型心筋症という病気になりますが、この2つの病気はともに進行がすすむと、1か月に1回はエコーの検査やレントゲンの検査を行い、薬の量を検討する必要があります。
現在、往診でも可能なポータブルのエコー検査機器もありますが、解像度は非常に低く、心臓の様に常に動いている臓器の検査はほとんどできません。
こちらも通常の動物病院で受診されるべきだと思います。
まとめ
ぼくは往診の動物病院を開院していますが、それでも往診がすべてだとは当然思ってはいません。
実際に今でも通常の動物病院で診察をしているので、レントゲンやエコー検査のありがたみは日にしみて感じていますし、外科手術が必要な犬や猫には外科手術を積極的に行っています。
それでもそういった検査や手術などが必要な時でも、ご自宅で看取らざる得ない場合、そんな時には是非とも往診をご活用していただきたいと思います。