以前に比べると、保護された犬や猫の話題をよく耳にするようになりました。
動物愛護にかかわる法令も色々更新され、動物愛護という言葉の意味が一般的になってきているというのもあると思います。
実際、動物病院で診療を行っていると、保護された犬や猫を迎いれましたという飼い主様が多くご来院されます。
さすがに犬ではほとんどありませんが、保護した経緯として、猫の場合は道端で弱っている仔猫を保護したというケーズもよくあります。
こういった場合では、保護した動物の詳細がわからないため、何かしらの病気をもっているのか、事故などにあったのかなど定かでなく、不安になって動物病院に連れてくる方も多くいらっしゃいます。
今回はそういった保護した猫などでたまに見られる横隔膜ヘルニアについてご説明したいと思います。
横隔膜ヘルニアとは
横隔膜は胸部と腹部を分ける、非常に強靭な筋膜です。
横隔膜によって肺や心臓などの胸部の臓器は胸腔内に、腸や肝臓、腎臓などの腹部の臓器は腹腔内に収まることができます。
ただ当然と言えば当然なのですが、横隔膜によって完全に胸部と腹部が隔絶されているわけではありません。
食道は頭部から胸腔内を通って腹腔内にある胃につながりますし、心臓からでる血管は腹腔内を含め全身にはりめぐっています。
そのため横隔膜には食道や大血管を通すための隙間が存在しています。
普段はこの隙間は食道や血管以外が通ることができないように隙間がしっかりと閉じているのですが、横隔膜ヘルニアはこの隙間が何らかの原因で大きくなってしまい、主に腹腔内の臓器、肝臓や腸が胸腔内に入り込んでしてしまう病気です。
横隔膜ヘルニアの原因と症状
横隔膜ヘルニアの原因は外傷性もしくは先天性のものがあります。
多くの場合、交通事故が外傷性の横隔膜ヘルニアの原因です。
ただ最近では都内では飼い犬が交通事故にあうケースはほとんどなく、マンションなどで飼われている猫がベランダから落下してまったケースか、先天性の横隔膜ヘルニアが原因であることが多いと思います。
個人的な経験で言えば、保護した猫が先天性横隔膜ヘルニアを起こしていたケースがほとんどで、外傷性の横隔膜ヘルニアの経験は数えるほどしかありません。
横隔膜ヘルニアの症状としては、外傷の場合、そもそも横隔膜ヘルニア以外の損傷もあるため、意識が混濁していたり、疼痛でパニックになっていたりするので、みための状況は一定ではありません。
先天性の場合、食欲や元気はあることが多いのですが、呼吸が速く、またお腹で息をしているような見かけになります。
横隔膜ヘルニアはレントゲンで容易に診断がつくので、もし保護した猫の呼吸に不安を感じたら、動物病院でご相談ください。
上は正常な猫のレントゲンです。
こちらは同じ猫が横隔膜ヘルニアを患っていたころのレントゲンです。
横隔膜に大きな穴が開いており、腹腔内の臓器が胸部に入り込んでいるため、胸部と腹部の境目がほぼわかりません。
治療法は?
原因が外傷性であっても、先天性であったとしても手術が唯一の治療法になりますが、一般的には手術は緊急的にやる必要はないとされています。
特に先天性横隔膜ヘルニアの場合は、仔猫の時に判明することが多いのですが、その場合は成猫になるまで待って避妊手術などと一緒に行うことが多いと思います。
外傷性の場合も、事故の影響がどう出るかはっきりしないことが多いので、受傷後2,3日様子を見てから手術の検討に入ることがほとんどだと思います。
手術は胸腔内に逸脱している臓器をおなか側から牽引して引っ張り出し、その後横隔膜に存在している孔を縫合して閉鎖します。
写真だとわかりにくいのですが、腹部から逸脱した肝臓と心臓がヘルニアの巨大な穴を通して確認することができます。
通常横隔膜は非常に強い筋膜でできているのですが、横隔膜ヘルニアを起こしている横隔膜は薄く裂けやすいので、縫い合わせる方向など色々考えながら縫合する必要があるので、縫合するだけとは言っても割と気を遣う手術だと個人的には思います。
術後の予後について
外傷性の横隔膜ヘルニアの場合、その事故による損傷の具合にもよるとは思いますが、術後24時間以内の死亡率は30%と言われています。
先天性の横隔膜ヘルニアの場合のリスクを調べている文献はあまりなかったのですが、臓器を元に戻すときに起こる血流や血圧の変化や血栓の発生、また術後に発生する不整脈などのリスクもあるため、他の手術と比べてもリスクやや高くはなると思います。
一般的には術後24時間以上たてば予後は良いと言われています。
呼吸の状態も目に見えて回復しており、非常に生活の質も改善され、通常の生活を送ることが可能になります。
まとめ
呼吸がつらそうにしている犬や猫を見るのは、飼い主様側としても見てられないぐらい不安になると思います。
あれっと思った時にはいつでもお気兼ねなくご相談ください。