犬は人間に比べて、椎間板ヘルニアを代表とする脊髄神経がおかされる病気の発生頻度、症状の重大さは非常に大きいものだと思います。
実際に動物病院で相談する内容でも、後躯麻痺についての相談は非常に多く、今となっては脊髄の手術はかなり一般化されたものとなっています。
ただ、残念ながらこの手の病気は、治療だけでなく、その後のリハビリが非常に重要となってきます。
特に老化をともなう疾患の場合には、リハビリの重要性がさらに増すため、多くの飼い主様が自宅でリハビリを頑張っています。
今回はそんなリハビリ中、もしくは今後リハビリが必要かもと思っていらっしゃる飼い主様に、往診医として自宅で行うリハビリについてご説明したいと思います。
後躯麻痺は犬にとってそれほどハンデにはならない!
これ言うと元も子もないのですが、犬にとって後ろ足が立たないということは、それほどハンデにはなりません。
野生で暮らす動物ならまだしも、家の中で生活する飼い犬にとって前足だけでの生活のリスクはそれほど高いものにはなりません。
実際、前足だけでも器用に移動できますし、信頼できる飼い主様がそばにいるのであれば、あまりストレスにも思っていないようにも感じられます。
ですので、飼い主様が無理をしてあれもこれもと取り入れていくのは、ぼくの個人的な意見としてはあまりいいものではないと思います。
大前提として、犬はリハビリに対してあまり積極的に行ってくれないので、とても飼い主様にとってもフラストレーションが溜まってきます。
ですので、「犬は前足だけでもお気楽極楽に暮らしていける!」という意識を持ちながら、リハビリに励んでいただくようにお勧めします。
起立訓練をしてみる
リハビリの第一歩は起立訓練です。
犬の後肢が麻痺した場合、圧倒的に多いのが突っ張って麻痺をしていることが多いと思います。
こういった力が常に入っているような麻痺の場合は、四つ足で立たせ、かつ地面に足の裏がちゃんとつくように立たせます。
食事をさせる時なども後ろ足を支えながら立たせて食べさせるようにします。
時間はかかりますが、多くの犬が、最終的に支えがなくても自分でバランスをとるところまで行けますので、ここまでこれればリハビリはほぼ終了したようなものです。
あとは一歩を踏み出すかどうかは本人次第なので、気長に待ちましょう。
とにかく寝ている時間を短くする
高齢の犬や、事故などにあった場合に多いのですが、前述のように突っ張った麻痺ではなく、だらんと垂れて、ふにゃふにゃに麻痺を起こすこともあります。
このような場合は、起立訓練は基本的には難しいので、伏せの状態を作らせます。
食事の時などを中心に、一日のほとんどの時間を伏せをさせて過ごさせます。
そのまま寝かせていると、筋量は加速度的に委縮していきますので、まず伏せでバランスをとれるように訓練していきます。
またバランスボールを使うのもいいリハビリになります。
バランスボールの上に腹ばいにさせ、四つ足は地面に付着させておきます。
はじめはうまくバランスをとることはできませんが、根気よく続けると自分でバランスをとるようになります。
こうすると、ある程度の補助が必要ではありますが、飼い主様がハーネスや介護用コルセットで散歩に行かせるのも可能となります。
マッサージをしてみる
マッサージは思ってらっしゃるほど特別な技術はいりません。
肩から尾のつけ根までの背骨に沿って、背骨の脇をなぞるように親指で押しながら、頭の方から尾に向かってなでてあげてください。
また、足先の指の股あたりをつねったり、指で刺激してください。
もちろん、難しい理論はあるのですが、マッサージはこの2種類だけで十分です。
往診でできること
上記のことに加え、往診では鍼治療、レーザー治療などができます。
これらはご自宅でのリハビリの効果を押し上げるのに大変役立つと思います。
無論投薬なども行いますが、状況に応じて持続可能な、負担の少ない治療を選択するのが理想だと思います。
まとめ
とにかくリハビリは無理しないのが一番重要です。
ご家族全員の協力も必要ですが、とにかく人に強要しながら行ったり、自分一人で無理するのは厳禁です。
飼い主様のストレスはそのまま犬のストレスになりますから、とにかくこれは余裕をもってできるであろうなということだけやるのが、リハビリの基本です。