慢性的な病気というのはどんなものでも厄介なものだと思います。
慢性腎不全、慢性肝炎など健康状態を脅かすような重篤なものから、慢性外耳炎、慢性膀胱炎など食欲や元気などには影響は少ないのですが、症状が出るたびに治療をしないといけないものまであります。
動物病院でも慢性的な病気にを患っている動物たちが日々多く来院しています。
今回は慢性的な病気の中でも、慢性的な下痢を主症状とする病気、炎症性腸疾患というものをご説明したいと思います。
炎症性腸疾患とは?
炎症性疾患とは特定の病名ではなく、腸の組織で様々な炎症性の細胞が過剰に活発化することで、腸炎を引き起こす病態の総称になります。
程度は様々ですが、軟便、下痢と言った便の異常がよく見られ、嘔吐も頻繁にみられることがあります。
出現する割合が多い細胞によって病名が異なり、リンパ球性形質細胞性腸炎とかリンパ球性プラズマ細胞性腸炎とか、好酸球性腸炎などの病名がつきます。
ただ、臨床上は犬種や猫によって出現する細胞に差はあるものの、細胞の種類によって治療が異なることはあまりありません。
むしろそういった異常な炎症性細胞の増殖が腸全域でおこっているのかどうなのかは病状の重さに大きくかかわってくるため、小腸だけでなく大腸にまで病巣が出現しているのかは予後判断のためにも非常に重要です。
検査方法・内視鏡は必要?
下痢がみられる病気は数多くあるため、検査として重要な項目は、下痢を引き起こしている根本の病気があるのかどうかを調べることです。
最近では寄生虫に感染しているような犬や猫はほとんど見られなくなりましたが、検便による寄生虫の有無や膵臓の機能の検査は必須となります。
また甲状腺や副腎皮質といった内分泌の異常によって下痢が頻発することもよくあるため、こういった血液検査も必要となります。
レントゲンやエコー検査などの画像診断も重要ですが、これらの検査で腸に炎症性の細胞が多く出ているかどうかはわかりません。
厳密にいえば、腸粘膜の生検が必要で、一般的には内視鏡検査を行います。
ここからはあくまでも個人的な意見なのですが、病状の初期段階から内視鏡検査を行うことはほとんどないと思います。
理由としてはある程度診断が固まった時点では、使用する薬剤に大きな違いからというのがその理由です。
内視鏡検査自体も麻酔をかける必要があるため、検査の中では動物の負担が大きいものとなるからです。
ただし、予想していたよりも病状の回復がないなどの場合には、あまり時間を変えずに内視鏡検査の導入を考えた方がいいと考えています。
実は炎症ではなく腸の腫瘍だった・・ということもあるからです。
特にタンパク漏出性腸炎と呼ばれる、血液中のタンパク濃度が低下する腸炎では、リンパ腫といった腫瘍のぞんざいがあるケースも多々あります。
いずれにしても慢性的な下痢は放っておくと、動物自体の一般状態を著しく低下させるため、適切な治療を行えるような材料を集める必要があるため、多項目にわたる検査は必要だと思います。
治療法について
治療は通常の整腸剤に加え、免疫を抑制する薬が必要になります。
代表的なものはステロイドになります。
ステロイドは即効性もあり、効果も非常に高いため、初期段階では導入しやすい薬です。
ただし、猫の場合はステロイドの副作用をあまり考えなくてもいいのですが、犬の場合は個体によってステロイドの副作用に対する抵抗性が非常に弱いこともあり、高容量の投与や長期的な投薬には不向きなこともあります。
そういった場合にはその他の免疫抑制剤を使用します。
使用する薬は数種類あり、どの薬を使用するかは獣医師の好みにもよるとは思いますが、効果の程度には大きな差はないと考えられています。
セカンドセレクトでは、投薬の容易さやコストなども合わせて検討させていただいておりますので、ご心配な点がありましたらお気兼ねなくおっしゃってください。
食事はどのようにすればいい?
以前はアレルゲンフリーの食事が基本でしたが、最近では低脂肪食をお勧めしています。
まだよくはわかっていないのですが、食事に含まれている脂肪が腸に何らかの刺激を与えているのではと考えられています。
各フードメーカーから色々なタイプのローファットのペットフードが販売されています。
飼い主様のご負担でなければ、ささみや白身の魚を主体とした手作りのものを与えてもいいと思います。
食事の内容についてご質問がある場合はお気兼ねなくご相談ください。
まとめ
炎症性腸疾患は人間でも多くの方が患っている病気です。
今のところ根本的な治療法はないのですが、できる限り負担を抑えた治療を心がけていきますので、ご安心してご来院下さい。