医療の技術は日進月歩という話はよく聞かれる言葉だと思います。

20年以上臨床現場にいると、特に医療機器の進歩はよく感じます。

CTやMRIなどといった検査機器は、僕が学生の頃は大学病院にすらなかったのですが、今では都内であれば簡単に検査を受けることができます。

普通の動物病院でも、レントゲンや血液検査の機器の性能は向上し、以前であれば時間のかかった検査も、迅速に出すことができます。

そういった検査機器の中でも、性能が上がったと特に感じるのはエコー検査機器です。

以前では画像の解像度も悪く、かなり客観性に乏しい機器だったのですが、解像度も上がり、ドプラーと呼ばれる機能が標準化されているので、どこの病院でも大概の心臓病は診断がつくようになりました。

エコー検査機器の発達により、ここ数年で「肺高血圧症」という病気の診断が多くなってきました。

高血圧という言葉を聞いただけでもあまりよい病気でないような印象ですが、今回はこの病気についてご説明したいと思います。

肺高血圧症とは?

肺高血圧症とはいわゆる高血圧症ではなく、肺を流れる動脈の血圧が上がる病気のことを言います。

猫よりは犬の方が発生率は高いと言われていますが、犬に比べると猫の方が圧倒的に検査もしにくいため、もし検査が簡易的に行えられれば少し違ってくるかもしれません。

肺動脈の血圧が上がる理由はいくつかあるのですが、教科書的にもっともメジャーな原因はフィラリア症に感染して2次的に発生するケースです。

ただここ数年ではフィラリアの感染率は非常に低く、特に都内ではほとんど見られなくなりました。

【犬フィラリア症】知っているようで知らないこの病気。結局どんな病気?

今のところ臨床的に多いのは、高齢な小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症による合併症や慢性気管支炎、または特発性と言われる原因があまりはっきりとしないものだと思います。

始めのうちは倦怠感やパンティングが多くみれらる程度なのですが、症状が進むと発咳、ふらつきや場合によっては失神などもみられるようになります。

安静時でもうまく肺でのガス交換が出来なくなるためチアノーゼが目立つようになり、最悪のケースでは喀血なども起こり、死に至ることもあります。

診断方法は?

肺高血圧症の診断はかなり難しく、人間でもいくつかの検査項目を満たして初めて診断がつきます。

また、肺動脈の血圧を計測するには、血管から直接カテーテルを挿入して計測するのですが、一般的な動物病院では実施は不可能な検査です。

したがって確定診断までは下せないものの、エコー検査にて診断をつけることがほとんどです。

肺高血圧症になると、肺動脈とつながっている心臓の右側部分に異常な肥大が見られるようになります。

また心臓内にある弁にも異常が見られ、心臓内で血液の逆流が見られるようになるため、その逆流速度を測定して診断をしていきます。

ぼくが獣医になりたての頃は、エコー検査機器もそれほど発達もしていなく、血流の速度を調べるドプラー機能があるエコー検査もそれほどメジャーではありませんでした。

ただ、今ではドプラー機能がないエコー検査機器しかもっていない動物病院はほとんどないので、こういった血流速度の計測は一般的な動物病院でもできます。

具体的には三尖弁、肺動脈弁という心臓の弁付近の逆流する血液の速度を測定し、一定以上の逆流が見られた場合に肺高血圧症と診断します。

ただ実際には、肺高血圧症は併発疾患がとても多いので、エコー検査だけでなく、レントゲン、血液検査、血圧測定、心電図なども必要です。

治療法について

今のところ、「これだ」というガイドラインは存在しません。

ぼくも含めた一般診療に従事する獣医師は、循環器の権威と呼ばれている獣医師の治療法を模倣しながら行っています。

人間と同様、併発疾患の治療を行いつつ、経過を見ていくことがほとんどです。

肺高血圧症の治療が必要となった場合は「シルデナフィル」という薬を使用します。

これは血管を拡張させる作用がとても強い薬で、肺高血圧症の薬としてはとても効能が高いのですが、使用していくにはいくつか問題点があります。

まず一つはとても薬価が高いということです。

シルデナフィルは商品名を「バイアグラ」といい、小型犬に使用したとしても1日1000円前後の薬価になることがほとんどです。

セカンドセレクトでは高価な薬の場合、個人輸入をして治療費を抑えてもらうことが多いのですが、薬の性質上、個人輸入のサイトも怪しげなサイトが多すぎて、どのサイトがいいのかは判断しずらいことも問題点です。

いちおう、処方にはジェネリックを使用しているのですが、それでも薬価は高いので、治療の際にはいつも難儀します。

また肺高血圧症と併発している疾患も、肺高血圧症の治療をしないといけないという時にはかなり病状が進行していることも多いので、症状をコントロールしずらいことも多くあります。

結局のところ、病気としてはあまりいい病気ではないので、念密な治療計画が必要になります。

まとめ

検査機器などの進歩によって、新しい病気が発見でいるということは、新しい悩みが生まれるということでもあると思います。

セカンドセレクトはできる限り、ペットだけでなく、飼い主様のご負担を軽減できるような治療を進めていきますので、もしご不安な点がございましたらいつでもご相談ください。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう