インフルエンザが流行るこの時期、意外とよく聞く言葉「人畜共通伝染病」。
その名の通り、人間と動物たちの種の垣根を超える伝染病のことです。
真っ先にインフルエンザやコロナウイルスなどの恐ろしい伝染病を思いつくかもしれませんが、身の回りのペットからも伝染することがある病気はいくつもあります。
そういった病気の中でも割とよく見られ、かつ動物病院の中で飼い主様に伝染していることが判明する病気が「皮膚糸状菌症」です。
今回はこの皮膚病についてご説明したいと思います。
皮膚糸状菌症とは?
皮膚糸状菌とはカビの一種のことで、その感染により皮膚に様々な病変を作ります。
一言にカビいっても様々な種類があるのですが、皮膚糸状菌とは病原性のあるカビの代表格になります。
病原性のあるとは言いつつも、元来カビの類は感染してもほとんど症状は出さないことが多いと言われています。
たとえば人間の水虫の原因と言われている白癬菌もカビの一種なのですが、日本人の女性の3人に1人は足先からこのカビが検出されます。
ただ、実際に3人に1人の女性が水虫を患っているかと言われれば・・・けっしてそういうわけではありません。
カビの症状が出るような場合には、感染された動物に何かしらの原因があることが多く、皮膚糸状菌症も同様に動物側に何かしらの原因があることが多いと言われています。
ちなみに猫は皮膚糸状菌症のキャリアであることが多く、特にペルシャ猫を代表とした多くの長毛種の猫は、症状は出さないのにもかかわらず、皮膚糸状菌が検出されます。
検査方法はたいていの場合、顕微鏡で検査を行い菌糸を見ることが多いのですが、なかなか見られないことも多いため、培養試験を行うこともあります。
ただ、検査結果が出るまで2週間から4週間程度かかるため、たいていの場合は疑わしくは治療することが多いと思います。
猫の皮膚糸状菌症
猫の皮膚糸状菌症は滅多に症状は出ないのですが、子猫には比較的多くみられます。
耳の根元や耳介の外側、四肢の関節のあたりなどに円形状の脱毛が見られます。
また足先や足裏にもガビガビしたかさぶたのようなものがこびりつくことも多く、その手足で顔周りを掻くため、症状の進んだ猫の場合は顔全体が脱毛したりします。
多くの場合は多少の赤みはあるものの、あまり痒がらず、子猫の場合は軽症であれば成長とともに自然治癒をすることもあります。
一方で、多頭飼育や何かしらの原因で免疫力が低下している猫の場合は積極的な治療を行わないと、病巣が拡大することがほとんどです。
皮膚糸状菌は、皮膚そのものというよりは被毛に付着していることが多いため、まず患部の剃毛が必須となります。
そのうえで抗真菌薬を外用もしくは内服で投与していきます。
ここ数年で日本で認可された犬や猫用の抗真菌剤も販売されるようになったため、猫の皮膚糸状菌症は比較的治療しやすくなったとは思いますが、それでも完治までには割と長い時間がかかることがほとんどです。
犬の皮膚糸状菌症
犬の場合も猫と同様に、症状が出ずに自然治癒することがほとんどだと言われています。
ただし、犬の場合はアレルギー性皮膚炎などの皮膚の免疫力を低下ささせる様々な要因が猫に比べると多く存在しているため、実際は割と多くの犬で症状が見られることがあります。
症状の出方はあまり典型的なものはないのですが、一般的には「リングワーム」と言われる赤い円形状の皮膚炎が全身性にみられます。
リングワームの多くはその周辺が赤くただれており、中心部は治癒しているかのように見えるリング状の病変です。
また爪周囲にも感染をして、爪周囲炎と言われる病変も作ります。
犬の皮膚糸状菌症は猫の場合と異なり、大抵の場合は基礎疾患が存在することが多いため、治療には基礎疾患の治療を行うことが必要となるケースが多いと思います。
したがって剃毛や抗真菌剤の使用だけでなく、アレルギーや甲状腺機能低下症などの代表的な皮膚疾患の治療も同時に行うほか、スキンケアも常時行う必要があります。
カビの存在が消失しても、たいていの場合は基礎疾患は治らないことが多いので、結局のところ治療は継続的に行わないといけないことも多いのも特徴です。
ウサギの皮膚糸状菌症
ウサギの皮膚糸状菌症もほとんどの場合は症状を出さないのですが、高齢や何かしらの疾患で衰弱したウサギにみられることがほとんどです。
教科書的には自然治癒がほとんどと言われていますが、実際に衰弱したウサギがその状態から離脱できることはまれなため、対応法はほとんどありません。
感染経路は他の動物からがほとんどと言われているため、もし高齢や何かしらの疾患で弱っているウサギの飼い主様で、他に犬や猫を飼われている場合は、隔離するのが最も効果的です。
ちなみに犬はハリネズミからもらうことも多いため、犬はハリネズミとも隔離したほうがいいと思います。
もし人間が感染したら・・・
皮膚糸状菌症は人間にも感染します。
特に皮膚病を患っている猫と同居している小さな子供や女性の方に皮膚病変が見られることはよく見かけます。
また先ほども書いた通り猫は症状を出さないことが多いので、皮膚病がない猫でも一緒にベッドで寝ているような女性は気を付けた方がいいと思います。
診察中に飼い主様の腕をみて獣医師が気づくケースも多く、「どうしたらいいですか?」とよく聞かれるのですが、とにかく皮膚科に受診するようにしてくださいとお伝えしています。
当たり前の話ですが・・・。
まとめ
皮膚糸状菌症と似たような皮膚病は数多くありますし、一般的な皮膚病は次の日に治るようなものでもありません。
治癒に至るまでは長期間かかることも多くあるため、あせらずじっくり治療することが必要だと思います。