多くの獣医師にとって先天性という言葉は色々な危険をはらんでおり、取り扱いには注意しないといけない言葉になります。
単なる病気の種類にとどまらず、その遺伝的な背景の責任や、保険などの免責事項にもかかわることも多いため、トラブルの火種になることもあるからです。
もちろん、こういった理由だけではありませんが、不幸なハンデを背負った動物がなくなるように多くの活動家や獣医師が声をあげ、ここ数年で先天性と思われるような疾患の多くはかなり少なくなってきたのが個人的な印象です。
それでも動物病院で診察をしていると、先天性の疾患を患った動物が来院することはさほど珍しいことではありません。
そういった病気の中で今回ご説明するのは水頭症です。
水頭症は割と有名な病気だとは思いますが、チワワなどの好発犬種の飼育頭数が増えてきているので知識として知っていてもいいと思います。
そもそも水頭症って何?
よく表現されることですが、脳というのは豆腐のようにもろい組織のため、それを守るための硬い頭骸骨と、その中に満たされている水の中に浮いていることで色々な衝撃から守られています。
この脳が浮いている水のことを脳脊髄液と呼びます。
この脳脊髄液が通常より多く頭蓋骨の中にたまり脳内の圧が異常に上がることで脳自体に損傷が起こり、様々な神経症状が出てくるのが水頭症のざっくりとした説明です。
脳脊髄液は血液の成分と似たような性状をしていて、脳内にある血管が集合している脈絡叢と呼ばれる場所とくも膜と呼ばれる脳を包む膜の下にある血管から作られます。
脳脊髄液は脳室と呼ばれる脳と脳の隙間を通って循環し、最終的にはまた血管から吸収されます。
水頭症は脳室が何らかの理由でふさがってしまい、脳脊髄液が循環できずにどんどんたまってしまうことで起こります。
動物病院でよく見る水頭症は先天的に脳室が狭窄しているような犬がほとんどなので、1歳未満で症状が出てしまい来院することが多いと思います。
こういいた犬では両目とも斜視が見られることも多く、頭の形もちょっと変な感じがします。
落ち着きがなく、攻撃的な性格の仔も多いと言われていて、同じ場所をくるくる回るなどの異常行動が見られることもあります。
重度の場合には断続的なけいれん発作が見られることもあり、場合によっては致死的になります。
一方で腫瘍や事故で脳室が狭窄することもあり、フレンチブルドッグなどの人気犬種は脳腫瘍の好発犬種になるで、中高齢で症状がみられることもあります。
腫瘍や髄膜炎などの炎症で脳脊髄液を吸収できなくなってしまうこともあり、この場合でも水頭症の症状が出ることもあります。
こういったケースでは異常行動が多くみられ、同じ方向にくるくる回る回旋運動や重度の痙攣が見られるようになります。
猫でも水頭症が見られることはあります。
伝染病や胎児時期に母猫に投薬された薬が原因となるのですが、非常にまれです。
ぼく自身は診たことはありません。
検査の方法は?
正直な話、水頭症を確実に診断できる検査方法はありません。
脳脊髄液の異常な貯留による脳圧の亢進は、脳脊髄液の脳室の拡大で判断します。
代表的な方法はMRI検査になりますが、チワワを代表とする水頭症の好発犬種は検査をするとたいてい脳室は拡張しています。
また逆に脳圧が亢進しているのにもかかわらず、脳室が拡大していないこともあります。
こういった犬たちが何かしらの神経症状が出た場合に、本当に水頭症が原因で症状を出しているのが確定させるすべがないことがあります。
したがって実際の動物病院の中での診断は、まず何かしらの神経症状があるかどうかから始まります。
もしその神経症状が水頭症からくるものと推測され、かつ検査にて他の原因の可能性を取り除き、最終的に脳室の拡張が見られた場合に水頭症と診断されます。
治療法は?水頭症の手術って?
水頭症と診断された動物が先天的な水頭症の場合、投薬治療から開始していきます。
基本的にはステロイドと脳圧降下剤が使用されます。
こういった投薬によって過剰に貯留している脳脊髄液を排出するのが目的です。
脳圧降下剤は利尿薬を使用するので、腎臓の機能や電解質を定期的にモニターすることをお勧めしています。
セカンドセレクトでは液体の脳圧降下剤を使用します。
大きな副作用はないのですが、あまり与えすぎると下痢になることがあるので注意が必要です。
もし万が一急性の症状が出た場合は、脳圧降下剤を30分から1時間程度、点滴で投薬していきます。
このような治療が行われていても、問題となっている神経的な症状が改善がない場合には外科手術の適応となります。
セカンドセレクトでは水頭症の外科手術は行っていないため、専門病院へのご紹介となります。
ただし、専門病院でも受け入れが可能なところは多くはなく、大学病院などの2次診療施設になります。
手術はもっぱらシャント手術と言われるもので、過剰に脳脊髄液が貯留している脳室に専用のカテーテルを挿入し、腹腔に排出される管を体内に埋没させます。
言葉で説明するとかなりむずかしいのですが、VPシャントという名前で検索すると色々な写真が出てくると思うので参考にしてください。
基本的にカテーテルについているバルブで脳圧を調整していくのですが、細菌感染のリスクやカテーテルが折れ曲がり脳脊髄系が排出されなくなったりということもあり、定期的に交換が必要になることがほとんどと言われています。
まとめ
水頭症のような神経的な症状が出た場合、当の疾患を持っている犬や猫だけでなく、介護という負担が飼い主様にも大きくかかってきます。
セカンドセレクトではそういった動物と飼い主様の負担をできる限り減らせられるような診察を心がけていますので、いつでもご相談ください。