待ったなしの事というのは意外と少ないかもしれませんが、それでも起こるときには起こります。

特に医療現場では、待ったなしの事には常に対応できるようにしておかねばなりません。

緊急入院や緊急手術が必要である病気というのは意外と多いのですが、今回ご説明したいのは胃捻転です。

おそらく動物病院で行う緊急手術の中ではトップレベルの緊急さを要する病気ですので、ご参考にしていただけると幸いです。

胃捻転はなぜなる?

人間でも乳幼児には胃捻転はたまに起こります。

乳幼児の胃は胃の靭帯がしっかりしていないため、胃はおなかの中で不安定になりやすいため捻転すると考えられていますが、はっきりとした原因はわかっていません。

犬の胃捻転も多くの場合は大型犬~超大型犬で起こり、特に胸が深いサイトハウンドと分類される犬種に好発しますが、実際なぜ起こるのかはわかっていません。

胃捻転は胃拡張ー胃捻転症候群というのが正式名称ですが、胃捻転が起こって胃拡張になるのか、胃拡張になって胃捻転が起こるのさえも分かっていません。

また小型犬でも胃拡張は起こるのですが、胃捻転まで起こすことはまれであり、対応法も異なります。

【胃拡張症候群】大型犬だけでなく、ミニチュアダックスにもよくみられる病気。原因は?手術する?

とにかく、胃捻転は何の前兆もなく起こり、かつ急激に症状が悪化するため、迅速な対応が必要となります。

もし胃捻転になったら

もし犬が胃捻転になった場合は、状態の変化は急激に起こります。

吐物がでない嘔吐を頻繁にするようになり、活動性は著しく低下していきます。

胃はその時点ですでに拡張しているのですが、経過ともに外見上から見てもわかるほど腹部は張った感じになり、さわると苦し気な鳴き声を漏らします。

さらに症状が進むと歩くこともままならなくなり、粘膜の色も蒼白になってきます。

胃捻転を起こした犬が動物病院に来院するときには、症状の進行が極めて速いため、どんなに急いで来院しても、腹部は非常に膨満したとても状態が悪くなった時に到着することがほとんどです。

本来であれば、胃が捻転しているのかどうか、バリウムなどの検査をしてから治療に入りたいところなのですが、状態の進行があまりにも早いため、検査をする余裕もなく治療を同時に行わなければいけなくなります。

残念ながら、治療は手術以外に方法はありません。

飼い主様の同意が得られるのであれば、そのまま鎮静、麻酔をかけ開腹手術を行うのですが、あまりにも病状が激しく変化するため、飼い主様自身も頭の整理がつかず、その場で返答できないこともあり、時間がいたずらに経過することもあります。

胃拡張が長時間起こった場合、胃の粘膜は虚血によって壊死が始まるほか、胃に隣接している脾臓にも虚血性の壊死が起こり始めるので時間との勝負になってきます。

そういった場合、手術までの時間稼ぎとしては、経皮的に胃までに太めの針を挿入し、胃内のガスを抜きます。

ただあくまでもこの処置は応急処置であり、時間とともにまた胃の中にガスが溜まりはじるため、最終的には開腹して手術をするしかありません。

こういった場面では飼い主様のご心配するお気持ちはよくご理解できるのですが、できる限り早めの決断をしていただくしかありません。

胃捻転の手術は?

胃捻転を起こしている犬の胃は胃拡張を起こしているため、胃に切開を施します。

切開した穴からガス抜けるため、胃の血流が回復し始め、とりあえずの時間を稼ぐことができます。

その間に捻転した際の臓器の異常を確認していきます。

胃捻転の併発疾患としては、隣接している脾臓の壊死があげられます。

脾臓が壊死したまま血流が回復すると、脾臓が壊死したことによって発生した様々な有毒な生体化学物質が回復した血流に流れてしまうため、脾臓が壊死した場合は速やかに脾臓を摘出する必要があります。

また胃自体の損傷も激しく、胃の一部を切除しないといけないこともあります。

これらの手術の後、もしくは同時に胃の内容物をすべて除去し、捻転を整復していきます。

よく知られていることですが、胃捻転の再発率は非常に高いため、以前より胃を固定する手術を同時に行うことが推奨されています。

セカンドセレクトでは胃壁と腹壁に切開を入れた後に縫合することで固定しています。

固定術には色々種類があるのですが、どの方法で固定したとしても再発することはあるため、万全な方法はありません。

また、大型犬を去勢手術する際に予防的に胃を固定をすることを推奨する獣医師もいます。

最近では腹腔鏡によって負担をかけることなく胃固定を行うような動物病院もあるので、もしそういった処置をご希望される飼い主様がいらっしゃいましたらご紹介も可能ですので、お気兼ねなくご相談ください。

ちなみにセカンドセレクトでの胃捻転の手術、入院費は程度によって異なりますが、20万から30万円ぐらいになります。

まとめ

胃捻転を起こしてからの時間の経過が長く、胃自体の損傷が激しい場合は、術後の死亡率は60%程度と言われています。

もちろん初期段階でも死亡率はそれなりに高いため、決して安全な手術でもありません。

唯一死亡率を下げる方法は、可能な限り早く手術を行うことです。

もし万が一、飼っている犬のおなかが急激に膨らんできたら、すぐにご相談ください。

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