膵臓という臓器は多様な役割を果たしています。
内分泌と言われる血糖値をコントロールするインスリンなどの分泌と、外分泌と呼ばれる多様な消化酵素の分泌が主な役割になります。
これらの働きは非常に緻密で、精密機械のようにコントロールされているのですが、この緻密さが破たんしたとしても、すぐに自覚症状が出ないことはよくあります。
膵臓癌のような悪性腫瘍であっても、サイレントキラーと呼ばれるようにその症状は末期までわかることはなく、膵臓に関する病気はしばしば診断を悩ますことになります。
今回ご紹介したい病気はそんな膵臓の病気の中で、膵外分泌不全と呼ばれる病気になります。
獣医師にとっては割とメジャーな病気なのですが、実際の診療現場では初期段階から診断されることはあまりない困った病気です。
慢性的な下痢をしている犬や猫を飼われている飼い主様の中でこの記事を読んで思う節があればいつでもご相談ください。
膵外分泌不全とは?
体の中の分泌腺で作られた物質は大まかに分けると血流に放出される内分泌と体の外に分泌される外分泌とがあります。
膵臓はこの内分泌、外分泌のどちらも行う臓器なのですが、このうち外分泌は膵液と呼ばれる消化酵素を消化管に分泌することを言います。
膵液には様々な消化酵素が含まれており、高校生の生物の授業などでは色々な語呂合わせで覚えた記憶があります。
膵液に含まれる消化酵素によって、タンパク、糖、脂肪といった体に必要な栄養素のほとんどが効率よく消化することができます。
膵外分泌不全はこの消化酵素が分泌されなくってしまうため、栄養素を消化することが出来ず、慢性的な下痢、体重減少がよく見られます。
つねに飢餓状態のようになっているため、食欲は非常に旺盛なことが多く、食べても食べても栄養にならずどんどん痩せていくようになります。
下痢は黄色もしくは白みがかった脂肪便が出ることが多いのですが、普通の下痢と区別がつかないような便が出ていることもあります。
膵外分泌不全の原因と検査は?
膵外分泌不全になる原因は明らかにはされていないのですが、ジャーマンシェパードなどの特定の犬種では、遺伝的に若いころから膵臓が委縮していくことで膵外分泌不全になることが知られています。
ただ、セカンドセレクトのように都内にある病院ではそもそもジャーマンシェパードを見かけることがあまりないため、膵外分泌不全の原因のほとんどは慢性的な膵炎を患った高齢の犬や猫がほとんどです。
これらの犬や猫では食欲は活発なのにもかかわらず、慢性的な下痢と体重減少が見られるのですが、一般的な血液検査ではほとんど異常が見られません。
一般的には特異的な膵臓の酵素の値を計測するのが有効な診断方法になるのですが、困ったことに必ずしも検査に陽性反応がでるというわけではないため、しばしば診断が困難になることもあります。
膵外分泌不全の治療は通常の胃腸炎の治療と並行して行うことができるため、結局のところ疑わしいような兆候があった場合には膵外分泌不全の治療に入るケースがほとんどです。
治療法は?
膵外分泌不全に陥った犬や猫は多くの消化酵素が不足しているため、食事に膵液に含まれる消化酵素を十分量与える必要があります。
人工的な消化酵素は非常に多量になるため、大抵の飼い主様はその量をみると少し驚かれると思います。
また食事の内容も低脂肪食が基本になるため、ドライフードであれば脂肪分が7%前後の処方食か、ささみやブロッコリーなどを湯がいたものを与えていただくのが理想です。
これらの治療でたいていの場合は便の性状は大幅に改善するのですが、慢性的な下痢を起こしているため、腸内細菌叢が非常に悪化しているため、善玉腸内細菌や抗菌剤の投与が必要になることもよくあります。
また高齢の猫の場合は原因となっている慢性膵炎の治療が必要となるケースもあり、ステロイドなどの投薬が必要になることもあります。
特に栄養状態が極めて悪化している犬や猫はその栄養をダイレクトに補給する必要もあるため、栄養素の補給、特にビタミン剤の投与などが必要になります。
このような治療でほとんどの犬や猫は改善するのですが、まったく症状の改善が見られないケースもあり、それがただ単に病状が進み切ってしまい治療に反応がないのか、それとも見つかっていない違う原因があるのか判断することは簡単なことではありません。
とにかく消化器の症状は多様な原因が重なっていることも多く、また原因は一つでないこともあるため、少しづつ検査や治療を加えながら様子を見ていくしかないと思います。
まとめ
慢性的な下痢はもちろん当の動物の生活を落とすことになるのですが、その世話をしないといけない飼い主様にも多くの負担がかかります。
もしこの記事を読んでいる飼い主様の中で、慢性的な下痢を起こしている犬や猫を飼われている方がいらっしゃいましたら、いつでもお気兼ねなくご相談下さい。