予測できないことというのは、特に医療の分野ではよくよく見られます。
そこに人為的なミスがなかったとしても、突如として思いもよらない生体反応が起こった経験は、医師、獣医師問わず、ほぼ皆が経験していることだと思います。
そういった予測不可能な生体反応の一つとして「血栓」というものがあります。
血栓はその名の通り血管内にできた血餅によって血管が詰らしてしまうことがあり、詰まってしまった血管によって様々な症状が出てきます。
今回は犬でまれにみられる全身性血栓塞栓症についてご説明したいと思います。
そもそも血栓ってなんでできる?
血栓はいきなりできるわけではなく、ほとんどの場合は基礎疾患となる病気がもとになり、たまたまできてしまうと考えられています。
代表的な病気としては心疾患、腎臓病、甲状腺機能低下症や多くの消化器疾患などで見られると言われています。
また人間と同様に高コレステロール血症などが原因による動脈血管の内皮構造が変化して起こる可能性なども挙げられていますが、実際のところ原因を特定できることは多くはなく、一見は特に何も病気がないような犬でも突如として血栓が発生することが多いと思います。
またよくあるケースとしては、大きな外科手術、とくに大きな腫瘍の摘出をした後に発生することもあり、術後の急変の要因としては常に気にしないことの一つに挙げられます。
一度発生した血栓が血管を詰まらしてしまう「血栓塞栓症」は大動脈や心臓、肺動脈などで見られるのですが、それによってみられる症状は血栓の大きさ、塞栓部位などによって異なり、無症状の場合もあれば致死的なこともあり、血栓が原因で死亡したとしてもそれが解明できないこともあります。
血栓塞栓症の症状は?
動物病院で見られる犬の血栓塞栓症は多くの場合、腹大動脈と呼ばれる血管で起こり、主な症状は後肢の麻痺が見れられることになります。
ほとんどの場合は突発的に起こり、後ろ足はダランとして力が入らないような状態になり、触ると少し冷たく感じます。
犬自体はおなかを触ると痛がるようなしぐさを見せることもあります。
よくあるのが、散歩の途中から突然歩けなくなったというケースが多く、運動によって必要な血液量が増加しているのにもかかわらず、後肢の血管に血栓が詰まって細くなっているため、血流不足を引き起こしているからだと推測されています。
検査方法と治療法は?
腹大動脈に起こった血栓塞栓症は基本的にはエコー検査で描写できることが多いと思います。
その他、血栓ができやすい状況なのかどうか、血液検査でも判断することができるため、支持診断として検査を行います。
また全身性の疾患を伴っていないかどうか、スクリーニング検査が必要となるため、結局のところ一通りの検査を行う必要があります。
とくに血栓は心臓内でできることも多いため、心臓内のエコー検査にて血栓の有無を確認すること、また不整脈が頻発していることもあるため心電図など、心臓の精密検査は必須となります。
基本的には基礎疾患となっているものを治療することが理想なのですが、先にも述べた通り、こういった検査でも本来の原因が見つからないケースも多くあるため、治療は基本的に支持療法となります。
以前は血栓を溶かす薬を点滴にて投与していたのですが、有効性に乏しいため最近ではあまり行われないと思います。
猫に比べると犬の血管は太いため、徐々に血流は回復してくることが多いので、新たな血栓ができないよう抗血栓薬を服用しながら長期間観察していくことがほとんどです。
ただし、血栓は肺動脈や腎動脈にも発生することがあるため、各主要な臓器に血栓塞栓症が見られた場合には、甚急性かつ致死的な症状が出ることもあるため注意が必要です。
まとめ
後肢が動かなくなる病気の代表的な疾患としては椎間板ヘルニアがあげられますが、好発犬種以外で突如後肢の麻痺がおこった場合は、血栓塞栓症の疑いがあります。
急激な症状ではなく、間欠的に後肢の麻痺がおこり、安静にしていると治癒するという症状を慢性的に繰り返すこともあるので、もし後肢の動きをみて不安を覚えるようなことがあればお気兼ねなくご相談ください。