奇形という言葉を聞くと、少しドキッとします。
獣医師として長年診察をしていると、まだ年齢が非常に若いのにもかかわらず、明らかに骨格や内臓系に異常が見られることがあります。
それを奇形と言ってしまうと、責任の所在は?ということになりなるからです。
明らかなブリーディングの乱発であれば話は単純なのですが、最近のコンプライアンスの上昇からそういったことはあまり見られなくなりました。
一方で純血種ならではの異常はいまだによくあります。
この場合、だれが悪いの?というと、誰も答えられることはできません。
そういった犬種や猫種を飼うのであれば、それは事前に理解したうえで飼ってくださいというのが大方の意見ですが、それも正直どうなんだろうと個人的には思います。
少し話はそれましたが、今回は近年飼育頭数が増加しているフレンチブルドッグやパグに多くみられる奇形、半側椎弓についてご説明したいと思います。
半側椎弓とは?
椎弓とは背骨の部分名称です。
背骨はいくつかの椎骨と呼ばれる小さな骨が靭帯や関節で結合しています。
ちなみに背骨には頚椎と呼ばれる7つの椎骨と、13個の胸椎、7個の腰椎からなり、計27個の椎骨で背骨が形成されています。
椎弓はこの椎骨の一部分の名称であり、これが変形して椎骨を半側椎弓と呼びます。
レントゲンでみると、正常な椎骨に比べるとつぶれてしまっているように見られます。
なぜ決まった犬種に多い?
椎骨はフレンチブルドッグやパグには一般的によくみられる奇形です。
これらの犬は短頭種と呼ばれ、鼻の短い顔が特徴です。
こういった犬種は元来、軟骨が変形しやすい家系同士を交配させているため、結果として生まれてきた犬が鼻が短くなった犬同士を交配させ、その形質を残していくようにしています。
したがってもともと骨格が変形しやすいため、鼻だけでなく、背骨の方にも影響が出てしまっているのだろうと思います。
同じように骨格が変形しやすい家系を持っているのがダックスフンドですが、ダックスフンドにはほとんど見られません。
また同じように鼻が短いシーズーにもあまり見られません。
フレンチブルドッグやパグに半側椎弓が出やすいのは、結局偶発的な要因が重なっているのでしょう。
治療法とその予後
基本的には目に見える症状はありません。
ただ半側椎弓がある場所は、椎骨同士が安定しにくいため椎間板の変性を起こしやすいため、椎間板ヘルニアなどによって背骨の中を通っている神経に影響を与える可能性はあります。
実際、椎間板ヘルニアを起こしたフレンチブルドッグなどは、MRIで調べるとたいてい椎間板ヘルニアをしている個所は椎骨の安定性が失われていることがほとんどです。
そのため手術をおこなう必要があった場合、通常の椎間板ヘルニアの手術だけでなく、背骨を固定する手術を同時に行う必要があるケースもあります。
この場合、わりと回復に時間のかかるケースが多いので、手術をする際にはよく熟考する必要があります。
ぼく自身もフレンチブルドッグの手術はたびたびおこなったことはありますが、手術自体も色々と大変なのですが、その後のリハビリはかなり大変でした。
ただ、ミニチュアダックスなどに比べると、こういった手術に至るまで重篤になるような症状を引き起こすケースはかなり少なく、半側椎弓があったからと言って必ずしも病気になるわけではありません。
最初に書いた通り、フレンチブルドッグやパグを飼い始めた際には、そういった奇形があるんだろうということだけは頭に留めておいた方がいいと思います。
まとめ
この記事を読んで少し心配になった飼い主様もいらっしゃるかもしれませんが、基本的には無症状で終わるケースがほとんどです。
もし心配でしたら、健康診断の一環として、レントゲン検査をしておいても損はないとは思いますので、いつでもご相談ください。