飼い主様の中にも健康診断をご自身が受けられた時に中性脂肪やコレステロールの値を気にされた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
中性脂肪やコレステロールが多く含まれている血液は見た目も白っぽく、血球成分を取り除くと白いドロッとした液体が分離されます。
この脂肪分を多く含んだ生理的な液体を医学的用語で「乳び」と言います。
基本的に血液中の脂肪分は血管の中で輸送されるのではなく、リンパ管を通って各所臓器に運搬されていきます。
血液検査などを行った際、結果の表に特記事項として乳びと書かれていた場合は、血液の中に含まれている脂肪分がリンパ管で吸収できないぐらい多いことを意味しているので、食事の内容などはより一層気を付けた方がいいと思います。
ところでたまにこの乳びが何らかの原因でリンパ管の外に漏れ出し、胸の中にたまってしまう病気があります。
「乳び胸」というのがその病名に当たるのですが、動物病院でもしばしば遭遇する病気です。
今回はあまり聞きなれない病気かもしれませんが、乳び胸についてご説明したいと思います。
乳び胸の原因は?
ほとんどのリンパ管は腸管にある静脈と鎖骨の下にある静脈とを結んでおり、その大部分は胸の中に存在しているため別名「胸管」とも呼ばれています。
リンパ管の中には血管から輸送された脂肪が多く含まれており、油分を摂取した後は肉眼的にも白い管として見えることもあります。
乳び胸はこの胸管がなんらかの理由で破損したことにより起こります。
破損したリンパ管からはリンパ液が持続的に漏出してきます。
レントゲンやエコーなどで胸水を確認したのち、除去した胸水を調べて断定するのですが、肉眼的にも非常に特徴的な色調をしているため、診断は容易につきます。
多くの場合は外傷性と言わており、交通事故や落下事故などで起こる併発疾患です。
外からの圧力によりリンパ管が損傷し、そこから脂肪を多く含んだリンパ液が漏出してきます。
外傷以外にも腫瘍の存在や心不全などが原因にあげられますが、多くの場合は原因が特定できない場合も多く、なんの予兆もなくいきなり乳び胸になっていることも多くあります。
乳び胸がたまった犬や猫は呼吸不全に陥り、一般状態は一気に低下していきます。
呼吸は腹式呼吸になり、全く動かなくなることが多く、猫でも開口呼吸をし始めます。
またリンパ液は脂肪を含む栄養素を多く含んでいるため、長期的なリンパ液の漏出は栄養失調を引き起こすため、段々と動物は削痩していきます。
治療法はあるの?
乳び胸で最も積極的な治療は外科的な手法を用いることです。
まず麻酔をかけ手術ができるような状態を回復させたのち、CT撮影を行いリンパ管の破損部分を特定していきます。
基本的に破損している個所を縫い合わせ回復させることは不可能に近いので、一般的には破損している個所のリンパ管付近を結紮してリンパ液の漏出を防ぎます。
胸管結紮と言われるこの手法は、唯一の根治治療になるのですが、漏出部分を完全に特定できないこともあるため、術後に乳び胸の再発がないかどうか1か月近くは観察が必要になります。
またリンパ管を結紮することによる合併症もあるため、人間の医療でも術後の死亡率は10%前後と言われています。
それでも唯一の根治医療にはなるので、できるだけ早い段階で一度は積極的に視野に入れた方がいいと思います。
セカンドセレクトでは残念ながら胸管結紮を行えるような施設がないため、2次診療を行っている動物病院にご紹介をしています。
基本的にCT撮影ありきの手術になるため、CTが併設されている動物病院のみ対応可能になるため、選択肢はそれほど多くはありませんが、可能な限り飼い主様の状況に合わせたご紹介をしております。
何らかの理由で手術ができない、もしくは手術には移行したくないご希望があった場合は、内科的な治療を選択します。
まずは低脂肪食を与えるように心がけてもらいます。
脂肪分が多い食事はリンパ液が増加傾向になるからです。
また人間のサプリメントでルチンというものがあるのですが、ルチンの投与によって乳び胸がまれに改善することもあります。
残念ながら日本では販売されていないのですが、以前に比べるとインターネットにて容易に個人輸入できるので、セカンドセレクトでは飼い主様に個人的に購入していただいています。
これらの内科的な手法は外傷性の乳び胸には効果があるという報告もあるのですが、自然発生的な乳び胸には効果がなく、乳びはとめどもなく胸腔内にたまっていきます。
胸腔内の乳びの量が増加すると、犬や猫は呼吸不全にすぐ陥るため、定期的に胸腔に針を穿刺して乳びを抜去します。
リンパ管の破損の状態によって乳びがたまってくる速度は違うのですが、遅くとも1週間、とても速い場合だと1日、2日でかなりの量の乳びがたまってきます。
胸腔に穿刺すると感染や胸膜炎を起こすといったリスクもあるので、あまり多数回の胸腔穿刺は避けるべきと言われてはいます。
そういった場合は胸腔にドレーンを設置し、たまった乳びを管で外に出すようにするのですが、管理も難しく、やはり合併症もあるため、予後はあまりよくはありません。
まとめ
今のところ乳び胸には確固たる根治治療はないのですが、セカンドセレクトではできる限り緩和が出来る方法を模索していくので、もし乳び胸わ患ってしまった場合はいつでもご連絡ください。
動物の移動が困難な場合も多く、往診のご依頼も多いのですが、こういった乳びを含めた胸水の治療は往診治療は不向きとなります。
本当に申し訳ないのですが、セカンドセレクトまでご来院下さい。
できる限り本人の負担にならないような治療を進めてまいります。