当たり前の話なのですが、飼い主の皆様は飼っている犬や猫をよくなでているのではないでしょうか。
体を撫でてあげるようなスキンシップは、ペットを飼う中で得られる一つの喜びです。
ところで動物の体を撫でていると、「あれ?」と思うようなしこりを発見したことがある飼い主様も多くいらっしゃると思います。
触っても痛がらないし、特に赤くなってもいない・・・。
それでも大丈夫だと思うけれど心配だから連れてきましたとおっしゃる飼い主様もたくさんいらっしゃいました。
ほとんどは問題ないものが多いのですが、たまに腫瘍性の病変もあるので、もし見つけてしまったらできる限り早めに連れてきていただいた方がいいと思います。
見つけたしこりが腫瘍かどうかは注射針を刺して吸引したものを顕微鏡で見る検査が一般的です。
その場で検査が簡易的にわかるため、すぐに仮診断を下すことができます。
こういったことでよく見つかる腫瘍の一つとして「肥満細胞腫」というものがあります。
あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、犬の場合は皮膚にできた腫瘍の約2割が肥満細胞腫を言われています。
肥満細胞腫と一言で言っても、犬なのか猫なのか、その活動性によっては対応が全く異なりますので、色々物議を醸しだすこともあります。
今回はこの肥満細胞腫についてご説明したいと思います。
肥満細胞とは
肥満細胞は体の中で免疫を担当する細胞で、血液中に一定量含まれています。
主な役割は体に異物が入った時に炎症反応を起こす働きのある細胞です。
もちろん、炎症反応は生体防御の一つして重要な役割を担っているのですが、最近では肥満細胞はアレルギー反応を引き起こす厄介な細胞として知られています。
肥満細胞は細胞の中に顆粒状の細胞質を含んでおり、この顆粒が炎症を引き起こすための様々な物質を含んでいます。
代表的なものとしてはヒスタミンがあげられますが、これは花粉症やそばアレルギーなどを引き起こす物質でもあり、しばしばその炎症反応は重篤な症状を引き起こすこともあります。
顕微鏡で見るとこうした顆粒が空砲のように見えることもあり、その見え方が脂肪細胞にそっくりなため、誤って名付けられたものが現在でも定着しています。
脂肪や肥満とは一切関係はありません。
肥満細胞腫とは
肥満細胞腫は肥満細胞が腫瘍化したものですが、同じ肥満細胞腫という名がついていてもその悪性度には大きな幅があります。
皮膚にできるしこりとして見つかるのが一般的です。
犬の場合はドーム状の軟らかいしこりを作ることが多いのですが、そのほかにも様々な形状があり、これといった決まった形はありません。
猫の場合は薄白いイボのような形をしていることが多いと思います。
また肥満細胞腫自体は刺激があるとその周囲に炎症を強く起こすため、赤く腫れあがったり、ぐずぐず湿った感じになっていることもあります。
こうした肥満細胞腫の治療は外科的な切除が基本的な治療法です。
ただ、肥満細胞のような免疫を担当する細胞は、組織や細胞間を移動する能力にたけているため、肥満細胞腫はその周囲の正常と思われる部位にも潜んでいるケースが多く、外科切除を行う際にはそのマージンは問題になることがよくあります。
悪性度が高い方が周囲の組織に入り込んでいる範囲が大きいため、飼い主様が想像しているよりも大きな術創になることもしばしばです。
肥満細胞腫では体表であればどこにでも発生するのですが、一般的に皮膚から粘膜に移行しているような場所、例えば口唇や陰部、肛門周囲または足先などにできた肥満細胞腫は悪性度が高いことが知られています。
また皮膚以外にも内臓諸臓器にできることも多く、脾臓は好発部位としてあげられます。
また消化管に発生することもあるのですが、この場合はとても予後が悪いとされています。
肥満細胞腫の悪性度
肥満細胞腫の細胞は特徴ある形をしているため、特に皮膚に発生した肥満細胞腫は術前から診断がついていることがほとんどです。
飼い主の皆様の中にはすでに特定できているのに「?」と思うかもしれませんが、特に犬の肥満細胞腫の場合は、術後にも病理検査はしっかり行う必要があります。
その理由としては外科的に完全に切除されたかどうかを判断する必要があるからです。
肥満細胞腫はしばしば広範囲のに散布されているので、切除した範囲を確認することは非常に重要となります。
また、切除した組織を病理検査をすることで、肥満細胞腫の悪性度を調べるのも大切な理由の一つです。
肥満細胞腫は同じ肥満細胞腫でも悪性度が様々で、それによって予後もとても異なります。
悪性度が低い肥満細胞腫であれば外科切除だけでそのあとの治療は必要ないのですが、悪性度が高くなるとそういうわけにもいきません。
化学療法などを併用するべきなのかどうかを推測するにも術後の病理検査は重要になります。
犬の肥満細胞腫の治療
犬の肥満細胞腫は皮膚に発生することがほとんどですが、そのほかにも脾臓や消化管にもみられるケースがあります。
現在ではこれらの肥満細胞腫は悪性度を評価する様々なグレード分類法があります。
治療法は発生場所に限らず一般的には外科手術を行い、術後の病理検査でのグレードが悪いものには抗がん剤の治療、もしくは分子標的薬というものを使用することもあります。
抗がん剤は点滴で行う場合と内服を投与する場合とがあり、それぞれ決まった抗がん剤のプロトコールがあります。
抗がん剤には強い副作用が出るリスクが高いため、犬自体の一般状態がよくないと実施することは難しいと思います。
また残念なことに奏効率はそれほど高いものではありません。
ですが、悪性度が高い肥満細胞腫の場合は現実的に行える主要な治療法の一つであることには変わりがありません。
一方で近年では一部の肥満細胞腫は特定の遺伝子を欠損していることが知られており、病理検査だけではなく遺伝子検査も頻繁に行われています。
もしこの遺伝子を保有していない肥満細胞であれば分子標的薬という比較的最近開発された薬に著効することが知られています。
分子標的薬は決まった腫瘍のみに作用するように設計されているため、抗がん剤のような重篤な副作用はほぼないかもしくは非常に軽微であるのが特徴です。
問題点としては薬価が非常に高価なため、特に大型犬では経済的な負担が非常に多くなります。
セカンドセレクトではそうったい場合に、個人輸入が出来るジェネリックのご紹介もしていますので、そのようなサイトを利用されている飼い主様も多数いらっしゃいます。
猫の肥満細胞腫の治療
猫の肥満細胞腫の場合も外科手術がその治療法のメインとなります。
ただし、猫の皮膚にできた肥満細胞腫はあまり活動的ではないのが一般的です。
いわゆるイボと同じように大きくもならなければ小さくもならないことが多いとされています。
ですので全身麻酔下で手術を行うのが困難な状況であれば、様子を見ていくのも一つの手です。
その一方で脾臓に発生した肥満細胞腫は猫の健康状態に大きく影響を出します。
食欲低下、嘔吐、貧血などはよくみられる所見で、全身的に肥満細胞腫が転移することもあります。
治療法は手術になるのですが、猫の脾臓にできた肥満細胞腫だけは仮に転移があったとしても、脾臓を摘出すると見かけ上、腫瘍の細胞がなくなることがあります。
その後の治療も不要なことが多いので、全身麻酔を使用できるような状況であれば積極的に検討したほうがいいと思います。
また犬と同様、消化管にできた肥満細胞腫は予後がとても悪く、緩和療法のみしか受け付けられないこともしばしばです。
一方で犬と異なる点は、抗がん剤などの化学療法の効果が著しく低いため、外科手術以外の方としてはステロイドの投薬が唯一の治療法になると思います。
まとめ
肥満細胞腫はその見かけもそうなのですが、その悪性度も多岐にわたります。
医学上の治療におけるプロトコールというのは悪性度のステージに合わせてしっかりと決められているのですが、逆にそれが飼い主様を困惑させる要因にもなります。
本当に手術が必要なのか?
ステロイドの投薬だけではいけないのか?
抗がん剤は必要なのか?
などのご相談を受けることもあります。
セカンドセレクトではこうした飼い主様への多角的なご相談もすることが出来ますので、何かしこりを見つけたときにはお気兼ねなくご相談ください。