生き物の血液の中には血球細胞成分以外にもいろいろな成分が含まれています。

細胞のエネルギー源になるブドウ糖やナトリウムやカリウムといった電解質、他にもミネラルやコレステロール、細胞からでる老廃物など様々な物質が血液を介して細胞間を行き交っています。

そんな物質の中で重要な役割を担っているもの一つとしてあげられるのが、たんぱく質です。

たんぱく質は体の筋肉などを構成する重要な役割を担っているほか、免疫物質やホルモンなど、様々に形を変えて血液中に存在しています。

血液中にあるたんぱく質の役割の一つとして、血液の濃度を一定に保つということがあげられます。

低たんぱく血症に陥った動物はしばしば血液内の液体成分が血管以外に漏出し、腹水やむくみなどを引き起こします。

これは体にとってかなり致命的な症状となりるので、特定の病気以外で自然発生的に血液のたんぱく質の濃度が下がることはありません。

今回はそんな低たんぱく血症を引き起こす病気の中の一つ、たんぱく漏出性腸炎についてご説明したいと思います。

たんぱく漏出性腸炎は病名ではない!?

たんぱく漏出性腸炎は腸管内にタンパク質が漏出する腸炎の総称です。

特にアルブミンと言われる栄養タンパクが重度に喪失される症状の名前であり、その原因となる基礎疾患が存在しています。

たんぱくが腸管内に漏出する原因は大きく分けて2つあります。

1つ目は非常に強い炎症が腸内に持続的に発生している場合です。

血管にはもともと小さいな穴が開いており、ある程度の質量の小さな物質はある程度自由に移動することが出来ます。

炎症が起こるとこの小さな血管の穴は広がり、比較的質量の大きな物質も通れるようになります。

アルブミンタンパクはもともと質量の大きい物質で、普段は血管の穴を通過することはできません。

炎症がひどくなり、血管の穴が持続的に拡大することによりアルブミンが血管内から腸内に漏出していきます。

この場合は腸粘膜に重度の炎症を起こす疾患、アレルギー性の疾患や自己免疫不全からくるような疾患が原因となります。

もう一つの原因はリンパ管が拡張していることによっておこります。

腸内のリンパ管はおもに脂肪の吸収などを担っているのですが、リンパ管内にも多くのタンパク質を含んでいます。

リンパ管の開口部が何らかの原因で拡張するとリンパ管内からたんぱく質が腸内に漏出します。

これをリンパ管開存症といい、多くの場合リンパ腫などの腫瘍の存在が原因となります。

症状は?

たんぱく漏出性腸炎の症状は慢性的な下痢が主症状です。

最初は下痢が続く程度ですが、症状が長期化するにつれて食欲不振と体重減少が目立つようになります。

また出血が伴うような下痢も起こっている場合には、貧血を起こすこともあります。

強い炎症なのか腫瘍性のものなのか、その原因によって症状の重さは少し異なりますが、長期的な低たんぱく血症が続くと腹水がたまり始めることもあります。

たんぱく漏出性腸炎の検査

たんぱく漏出性腸炎は慢性的な下痢に加え、血液検査にて低アルブミンタンパクが特徴的にみられるため、診断は割と簡単につけることが出来ます。

加えて、エコー検査にて腸の粘膜層に特徴的な像が得られるかどうかで、炎症性のものか腫瘍性のものか仮診断をつけることが可能です。

ただし原因の特定、確定診断を行うためには腸粘膜を一部採取し、病理検査を行うことが必要です。

治療法と内視鏡の必要性

病理検査を行うにあたり、最も一般的な方法は内視鏡になります。

一番正確な診断を行うには開腹し腸の全層検査が必要ですが、腸自体を切除する必要があるため、リスクが高い検査となり、あまり積極的には行いません。

内視鏡での検査は腸の粘膜面のみしか採取できないため、たまに腫瘍の存在を明らかにしきることができないこともありますが、動物に与える影響はかなり低く抑えることが出来ます。

獣医師として悩みどころなのは、この内視鏡の検査をいつの時期に行うべきかということです。

内視鏡検査は影響が少ないと言いつつも全身麻酔を使用します。

低たんぱく血症を起こし、一般的な状態が低下している中で全身麻酔を使用することは思わぬリスクを招くこともあります。

獣医師によっては内視鏡による病理検査のタイミングは非常に異なります。

個人的な意見では、まず症状が軽い症例であれば、簡単な整腸剤を低脂肪食を主体とした食事療法を2か月程度行います。

それでも症状の改善がなければ、第一選択薬としてステロイド剤を使用します。

ステロイドを1週間から2週間しようしても症状の改善がない、もしくはステロイドの使用量が重大な副作用を引き起こす可能性がある量でしか維持が出来ない場合に、内視鏡検査を行うようお勧めしています。

たんぱく漏出性腸炎が炎症性であっても腫瘍性であっても、どちらにせよ最初の段階ではステロイドが一般的な治療薬であり、初期治療はあまり変わらないからです。

ただしステロイドによる治療が破たんし、次の治療に移行する場合はできれば原因が判明していた方がいいと思います。

炎症性であれば免疫抑制剤を、腫瘍性であれば抗がん剤を使用するなどの選択に差が出てるからです。

まとめ

どちらにせよ、たんぱく漏出性腸炎は生涯にわたる投薬が必要なのと、場合によっては予後がとても悪いケースもあります。

セカンドセレクトでは内視鏡検査は2次診療の動物病院を利用していますが、多くのタンパク漏出性腸炎をわずらった動物たちが通院しています。

もし長期的な下痢が見られた場合、オヤッと思ったらいつでもお気兼ねなくご相談ください。

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