セカンドセレクトでもそうなのですが、3月の後半あたりから6月ぐらいまでは動物病院は一気に忙しくなります。
猫の飼い主様にとってはあまり関係のないかもしれませんが、犬の飼い主様にとっては予防シーズンになるからです。
狂犬病ワクチンはこの時期に役所から通知が来ますし、場合によっては混合ワクチンも時期が重なっていることもあります。
その他にフィラリアの予防もこの時期から始める飼い主様も多くいらっしゃいます。
犬の飼い主様にとってはフィラリアという寄生虫はよく聞きなれたものだと思いますが、実際どんな病気?と聞かれるとちょっと答えにくい飼い主様もいらっしゃると思います。
今回はこの予防の時期にしっかりとした知識で予防を開始していただきたいので、動物病院では超メージャーな単語、犬のフィラリア症についてご説明したいと思います。
フィラリアって何?
そもそもフィラリアというのは寄生虫の名前で、線虫という名前の寄生虫の部類に属しています。
フィラリア自体にはいくつか種類があります。
日本で一般的に言われているフィラリアは犬糸状虫と言って犬の心臓に寄生する寄生虫ですが、文献的には過去に人間にも感染をしたという事例があったそうです。
ほとんどの飼い主様がご存知のようにフィラリアは蚊によって媒介されます。
もともとフィラリアに感染している犬の血液中には、親虫が産んだ仔虫である多数のミクロフィラリアが血流中に潜んでいます。
蚊が吸血する際、このミクロフィラリアを一緒に吸血し、蚊の唾液腺の中で成熟します。
そしてミクロフィラリアに感染した蚊が再度犬を吸血した際に、この成熟したミクロフィラリアが犬の皮膚に付着します。
この付着したフィラリアの仔虫は、鋭い牙を持っており、これを使って犬の皮膚から皮下組織に侵入し、親虫になるためその場所で成長していきます。
フィラリアの成長というのは脱皮を行うことにより起こりますが、成熟した親虫になるため計5回脱皮していきます。
ちなみに蚊の唾液腺では2回脱皮をしたあと犬の体内に入り込み、計3回脱皮をしながら全身の組織を移動してきます。
この期間は約70日と言われています。
そして最後の5回目の脱皮を行った後、血管の中に侵入します。
心臓の右側(静脈側)を最終生息地として寄生し、そこでミクロフィラリアをまた産み始めます。
ぼく自身は正直な話、虫とかが苦手なので、自分で書いていてもキモイ・・というのが感想です。
フィラリア症とは
フィラリアの最終寄生部位は心臓の右心部分になります。
心臓の右心は全身からの静脈血が流れ込んでくる場所で、フィラリアが寄生すると右心の血流が阻害されるため、血液が心臓に還ってくる力に影響が出てきます。
全身の血液がうまく還流できないので、全身的にうっ滞を起こし始めます。
顕著に出やすいのが肺の血管なので、フィラリアの成虫に感染した犬の症状は発咳が多くみられます。
もちろん全身の血管にもうっ滞が見られるため、腹水が貯留したり、肝臓や脾臓と言った血管が豊富な臓器が腫大したりもします。
多くの場合は症状は初期段階ではほとんど見られず、緩慢に進行してくるのがほとんどなのですが、症状が末期の段階になると、重度の呼吸器症状が見られるため、肺水腫といって重度の呼吸困難により死亡することがあります。
また、まれにフィラリアの成虫が心臓の外に出て大静脈に寄生した場合は重篤な症状が出ます。
ベナキャバとよく言われているのですが、重度の呼吸器不全と心不全が出現し、急速に死に転嫁する恐ろしい症状です。
ぼくも過去何回かしか遭遇したことはないのですが、色々な手段を講じたとしても功を奏すことはありませんでした。
唯一の治療法は頸静脈から細い鉗子を使って、静脈に寄生しているフィラリアを摘出するしかありません。
セカンドセレクトではベナキャバに対しての外科処置を行うことが出来ません。
都内でも限られた病院のみになります。
ベナキャバの見た目の症状としてわかりやすいのは、血色素尿と言って、ワイン色の尿が出るので、あらかじめフィラリアに感染している犬を飼われている飼い主様は、犬の尿色には日ごろから注意して観察したほうがいいと思います。
フィラリアの予防薬の実際
フィラリアの予防薬と一般的に言われているものは色々な種類があるのですが、基本的にはフィラリアの感染を防ぐものではなく、感染したフィラリアの仔虫を駆虫する薬になります。
先ほど書いた通り、蚊から犬に侵入したフィラリアが血管内に侵入するまで約70日あります。
フィラリアの予防薬というものは、体内に侵入し70日たっていない仔虫を駆虫するために使用します。
ですので、基本的には蚊に刺された後に投薬しなければ意味がありません。
3月に蚊が発生したら4月からフィラリアの駆虫薬を投薬しないといけませんし、11月が蚊の終息時期であれば12月に投薬をしないといけません。
温暖化の影響を受け、年々予防期間は延長しています。
セカンドセレクトでは4月から12月を予防推奨期間としています。
また、夏に生まれた仔犬を12月や1月に引き取った時には、蚊はもういませんが、引き取った時期にフィラリアの駆虫薬を投薬することをお勧めしています。
もし生まれたての時に感染を起こし、4月まで投薬をしないでいると、予防を始めようと思った時にはすでにフィラリアの成虫に感染していることもあるからです。
ちなみにフィラリアのお薬の元の成分は日本人の発明です。
数年前にこの薬剤の開発が認められ、とある日本人の偉大な先生がノーベル賞を受賞しています。
実は超メジャーではない犬の病気
これだけメジャーなフィラリア症ですが、都内に関して言えばそれほどメジャーな病気ではありません。
確実な疫学的な検証はありませんが、都内ではフィラリアはほぼ撲滅されていると言われています。
ですので、セカンドセレクトでもフィラリアに感染している犬を見る機会はほとんどありません。
フィラリア感染を起こしているほとんどの場合は、もともとフィラリアに感染してしまった保護犬をご自宅に引きとったというケースであり、初めから飼っている犬をフィラリア症にしてしまったという飼い主様はもうほぼいないのでは?と個人的には思います。
実際、都心の方ではフィラリアの予防を全くしない飼い主様もいらっしゃいますが、都内ではフィラリアの予防をしなくてもいいのかというと、それでも答えはNOです。
すべての伝染病においていえるのですが、接触感染ではなく、蚊などの媒介する動物があるような伝染病は伝搬していくのが容易であり、また防ぎきることは困難です。
また現在、都内がほぼ撲滅状態なのも、ほとんどの飼い主様が予防をしているからであり、この状況が崩れれば、必ずフィラリア症は蔓延することになると思います。
フィラリアの予防薬はその薬の副作用も軽微であり、それほど高価な薬ではありません。
目の前にあるリスクに比べれば、非常に簡単にリスクを回避することができるので、予防は絶対的に行うべきだと思います。
不幸にも成虫に感染してしまったら・・
フィラリアの駆虫薬は成虫となったフィラリアを駆虫することはできません。
フィラリアの成虫を駆虫する方法はいくつかありますが、どれも完ぺきではありません。
方法の一つとしてはフィラリアの寿命を待つという方法があります。
フィラリアの寿命は6年から7年と言われています。
この間、症状が軽微な状態を保ってくれていれば、犬の方が寿命が長いため、フィラリア症から回復することが出来ます。
またフィラリア症の症状が軽い場合、フィラリアの成虫を駆虫する薬を使用することもあります。
よく使用される薬剤はヒ素系の薬剤のため副作用も強く出やすい他、薬剤によって死んだ成虫が肺の血管に詰まってしまうこともあるため、成虫が白血球などの体本来持っている免疫によって分解されるまで、1年以上は経過を注意深く観察する必要があります。
この治療は治療のおけるリスクが高いため、セカンドセレクトではあまりお勧めしていません。
現在、セカンドセレクトでは、抗生剤の1種がフィラリア成虫の発育防止と、死滅期間の短縮に効能があるとされているため、そちらの抗生剤を服用して様子を見ていただいています。
いずれにしてもあくまでもフィラリア症の症状が進行しないというのが条件であり、症状が進み心不全が見られるようであれば、その進行を食い止めるだけでもかなり困難です。
そういった意味でもフィラリアは適切に予防することをお勧めします。
まとめ
ある統計では人間を一番殺害している動物は蚊だと言われています。
フィラリアだけでなく様々な伝染病を媒介し、人類に大きな影響を与えているからです。
これは人間だけでなく犬も同様です。
ただこういった恐ろしい伝染病が拡大されていても、予防医学というものは日進月歩です。
獣医師としていつも思うのですが、予防できる病気があるというのはとても幸運なことだと思います。
セカンドセレクトでは色々なフィラリアの予防薬がありますので、いつでもお気軽にご相談ください。