医学がどんなに進んだとしても、悲しい話ですが原因も治療法も解明できない病気というのはまだまだたくさんあります。
もちろんそれは獣医学でも同じ話であり、普段診察をしていても病名はついていているが、まだよくわかっていない病気に遭遇することは日常よくあることです。
今回ご紹介したい病気はそんな病気の中でも「アロペシアX」と言われる皮膚病です。
アロペシアXは動物病院でも比較的よく見かける病気なのですが、今のところ確定的な検査方法と治療法はありません。
セカンドセレクトでも数多くのアロペシアXを患ったペットがやってきますが、運良く治癒した仔もいれば、治らなかった仔もいました。
この記事ではアロペシアXの治療の流れをご説明したいと思います。
アロペシアXとは?
「アロペシア」とは脱毛という意味です。
「X」は怪人XのX。
つまり原因不明の脱毛症ということです。
おそらく内分泌疾患の一つであると考えられており、何かしらのホルモンの分泌異常が関与しているであろうと推測されています。
病気自体はかなり昔から報告があるため、色々な獣医師たちが検査や治療の仮説を立てました。
とある獣医師はあるホルモンの分泌が過剰なため起こると提唱したり、また他の獣医師は別のホルモンの原因を提唱しました。
結果として、色々な獣医師が色々な病気の名前を仮でつけてしまったので、アロペシアXにはいろいろな名称がついています。
今のところ、アロペシアXというのが最も一般的な病名であり、四肢や顔面以外に起こる広範囲な脱毛で、他に検査上や臨床上の異常が見当たらない脱毛といったような定義がされています。
とにかくポメラニアンに多くみられるため、ポメハゲとも呼ばれることもありますが、ポメラニアン以外にも起こります。
セカンドセレクトでも、ポメラニアンやパピヨン、トイプードル、シェルティーなどの人気犬種で発症している仔達を治療しています。
脱毛自体は尾や腰、もしくは頚部あたりの脱毛から始まりますが、特徴的なのは全体的に毛質にも腰がなく、つややかさが失われています。
皮膚は少し脂っぽいのに、被毛はカサカサした感じです。
脱毛は緩やかに拡大し、最終的には顔や四肢のみに発毛が見られます。
皮膚はつるっとした感じになりますが、色素沈着が見られることも多く、だいたいは黒ずんだ色になります。
かゆみや赤みが見られることはほとんどありませんが、たまに細菌感染を起こして湿疹ができると少し痒がります。
ただ、脱毛以外には犬自体の様子は変わることなく、食欲や活動性、寿命などは他の犬とほとんど変わりません。
診察の流れ
基本的には特徴的な脱毛から簡易的に診断はつくのですが、一応念のために検査をお勧めしています。
検査の内容は一般的な血液検査に加え、内分泌の検査を行います。
教科書的には脱毛以外の異常が見られないことと書かれているのですが、実際には併発疾患(かどうかは不明)が見られることもあり、アロペシアXと同時に治療をしないといけないこともあります。
また季節性が若干あることもあり、夏になると症状が緩和するような犬もいるため、検査で異常が見られなくても、念のため症状が強く出ている冬で再度検査を行うこともあります。
ただし、先述した通り、これといった特異的な検査結果を得ることはほとんどないので、検査に異常がないことを確認するための検査という内容になります。
治療は?
どちらかといえば治療薬というよりはサプリメントに近いものを使用し様子を見ていきます。
サプリメントと言えども、2か月から3か月程度与えていると発毛が見られることもあります。
ただ、一度効果のみられたサプリメントを別の仔に使用しても効果が出てくるとは限らないので、一つのサプリメントを3か月程度使用してみて、効果が見られなければ別のサプリメントを使用するというようなことを続けていきます。
サプリメントはアロペシアXに対して有効性を認めたという報告があるものから、コラーゲンやω3製剤、ビタミンやビオチンなどの栄養サプリメントなど様々あります。
どれがいいというわけではないので、慌てず一つ一つ試してみることをお勧めしています。
また文献によっては脱毛があった場所を手術によって切開したり、外傷によって傷がついた皮膚からは、発毛が見られるという記述もあるので、トリミングなどの際にマッサージやブラシなどで皮膚を刺激することもお勧めしています。
獣医師がいうのもなんですが、命にかかわるものではないので気長に毛が生えてくるまで待つのがいいと思います。
まとめ
原因も検査方法も治療法も何もかも不明の病気は、獣医医療ではたまに見かけることがあります。
人間の医療もそうですが、医療の進歩とともに奇病、難病と言われていたものもちゃんと治療できるようになった病気はいくつもあります。
いつかはこの病気も解明され、治療薬が開発されることを祈っています。