あまり肯定はしたくないのですが、最近になってちょくちょく「若いころと違う」ということを実感するようになりました。
まだ目などの感覚器の衰えは感じないのですが、電話番号や人の名前が一発で覚えられなくなったり、いつもと違う運動をするとすぐに筋肉痛になってしまったり、食べ過ぎるとすぐお腹に脂肪がついたり・・。
年齢を重ねていくと経験値が増えていくのでもちろんいいこともあるのですが、今後さらに年齢を重ねた時にできないことがいくつも出てくると思うと少し悲しい気持ちになります。
少し強引な出だしになってしまいましたが、ペットの年齢によって選択される治療は大幅に変わってくることがよくあります。
同じ治療でも高齢の動物たちにとっては非常に負担のかかることがあるからです。
高齢になって腫瘍が見つかったら・・
高齢になって手術が必要な大きなけがをしてしまったら・・
高齢になって○○になったら・・
ペットが若くて元気な時には全く想像もしていなかったことでも、難しい判断をしないといけない時がやってくる確率はみな等しく同じです。
本当は治療をした方がいいのはわかっているが、高齢だからこそかかる負担やリスクが心配で踏み込めないという場面は、普段診察をしていてもよくあるシチュエーションです。
セカンドセレクトでは今までも高齢になったペットの診療についてのブログを書いてきました。
過去記事を以下に貼っておきます。
今回の記事では高齢になった時に起こった椎間板ヘルニアについてです。
10年以上前に一大ブームとなったミニチュアダックスフンドが、令和の時代には高齢犬の代表格になってきました。
セカンドセレクトにも多くの高齢になったミニチュアダックスフンドが通院されていますが、その犬たちの大きな問題が椎間板ヘルニアです。
もともとミニチュアダックスフンドは椎間板ヘルニアの好発犬種なのですが、その治療法はもっぱら温存療法か手術かの選択になります。
どちらを取るべきかはその時の症状で決断していくのですが、高齢になったミニチュアダックスフンドが手術を適応するべき症状になった時に手術を選択するかどうか、多くの飼い主様が悩まれています。
今回の記事がご参考になれば幸いです。
手術を考えるべき椎間板ヘルニアの症状とは
以前からある基準ですが、椎間板ヘルニアはグレードがⅠからⅤまであります。
グレードⅠは疼痛のみの症状で、グレードⅢあたりから顕著な後肢の麻痺が見られ、グレードⅣで排尿麻痺、グレードⅤでは痛覚の麻痺が見られます。
一般的に後肢の歩行不全が見られるグレードⅢまでは内科治療もそれなりに有効ですが、排尿麻痺が見られるようなグレードⅣ以降からは内科的な温存療法の治癒率は著しく低下します。
グレードⅤでは外科手術以外での治療の有効性はほとんど認められないと言われています。
ちなみに、よく言われている48時間以内に手術しないと治癒が見込めないというのはグレードⅤの深部痛覚が消失した症例での話です。
これはあくまでも個人的な見解にはなりますが、20年程度前であれば普通の一般診療を行う動物病院では椎間板ヘルニアの手術はあまり行われていなかった記憶があります。
なので、椎間板ヘルニアの手術を積極的に勧めるのはグレードⅣからのことが多く、早期からの手術を提案するのは外科治療を積極的に行う2次診療の病院ぐらいでした。
その後、ミニチュアダックスフンドの空前のブームが起こり、椎間板ヘルニアを患って来院する犬の頭数も莫大に増加していきました。
そのため、椎間板ヘルニアの手術が執刀可能な獣医師の数も増え、また手術が安全に行える手術器具も導入されるようになったため、今では普通の町の動物病院でも行えるような手術になっています。
結果として以前よりも早い段階で手術を推奨する獣医師が増え、現在では歩行不全が見られるグレードⅡからⅢの段階で内科治療よりも外科治療を進める動物病院が大多数を占めるようになりました。
手術後の治癒率自体はここ数年ではほとんど変化はなく、また病院によって差が出てくることもほとんどなくなりました。
違いとしたら、術創の大きさ程度だと思います。
ちなみに椎間板ヘルニアの手術の料金は、都内であれば入院とMRI検査が込みで30万円前後が相場になります。
入院自体も3~5日前後が普通です。
ぼく自身は椎間板ヘルニアの手術の執刀経験は、平均的な獣医師よりも多いとは思います。
ですが手術を勧めるのはグレードⅢで内科治療を行ってもあまり効果が見られなかった場合からです。
おそらく今の現状と比べると、他の獣医師よりも少し古典的な判断にはなっていると思います。
理由としては、手術をしても再発する犬は再発しますし、手術をした犬が高齢になった時に背が丸く曲がってしまうことが多いと思うからです。
実際どれくらいの人が手術を決断する?
当然のことながら実際に手術を検討する飼い主様の割合は、犬の年齢によります。
外科手術を考える飼い主様の割合は、通われている動物病院によってもまちまちだと思います。
極端な話、整形外科を専門に行っているような病院に通われている飼い主様であれば、年齢にかかわらず積極的に手術を検討するでしょう。
一方でセカンドセレクトは町によくある普通の動物病院です。
ですので通われている飼い主様も、一般的な平均的な意識で治療に臨まれることが多いと思います。
もし飼っている犬が椎間板ヘルニアになり、手術をしないといけない状態になった時、犬の年齢が10歳未満であればほぼ100%の飼い主様が手術を検討します。
10歳が一つの分かれ目となり、手術を積極的に考える飼い主様と考えない飼い主様の比率が7:3ぐらいの比率になります。
それから年齢が1歳重ねるごとに1割~2割ぐらいづつ変化していきます。
例えば11歳の犬であれば、積極的に手術を検討する飼い主様は半分程度になり、13歳であれば2~3割程度、15歳であれば1割未満の飼い主様しか手術を望まれません。
もちろん犬の一般状態や、排尿麻痺の介護が容易な環境なのかどうかにも変わってはいきますが、全体的な印象としてはそんな感じだと思います。
まとめ
人間と犬や猫ではもともとの余命が全く異なるため、どこまで積極的な治療をすることがいいことなのかという答えを探すことは容易ではありません。
セカンドセレクトでは最近そういった悩みを抱える飼い主様のご来院が非常に増えてきています。
もし今悩まれている飼い主様が偶然この記事を読んで、少しでも参考になればと願っています。