特に高齢犬では多いのですが、足腰のふらつきや力強さがなくなってきたことを心配する飼い主様はとても多いと思います。
年齢からくる衰えのこともありますが、病気からくるものでないかどうかはやはり心配なところでしょう。
足腰が弱ってくるような病気はいくつかあるのですが、筋肉が萎えてくる部位によって推測できることもあります。
今回はそういった病気の中で、前足、後ろ足とも弱っていく病気、重症筋無力症という病気をご説明したいと思います。
重症筋無力症って?
重症筋無力症は過剰な免疫反応により、筋肉と筋肉を動かす神経が結合している部位が侵される病気です。
結合部に自己抗体が作られてしまうため、筋肉と神経の連動がうまくいかず、筋肉が弱っていくことで起こります。
基本的には10歳前後の高齢期の犬に発症するのですが、2歳前後の若い犬にもみられることがあります。
先天的な問題で筋肉と神経の結合部の異常がみられることもあり、その場合にはより幼い犬に見られます。
猫ではかなりまれな病気ではあるのですが、アビシニアンやソマリに見られれることがあります。
また、自分では見たことはありませんが甲状腺機能低下症をおこしている猫の治療中に、治療薬の副作用として引き起こされるケースもあるとされています。
重症筋無力症の症状は?
筋肉の虚弱から非常に疲れやすくなり、運動負荷をかけると四肢がふらつく、起立できなくなるなどの症状がみられます。
また食道の筋肉も侵されていることが多く、巨大食道症がみられることがよくあります。
巨大食道症では食道の蠕動運動が失われるため、食後に噴水のように噴き出す突出性の嘔吐や、安静時にも涎が出続けたり、気管支炎をおこして湿った発咳が見られます。
筋肉の虚弱は緩慢に進行していくことが多いのですが、重度の巨大食道症をわずらった犬や猫では、誤嚥により肺炎を起こし重篤な状態になることが多いと思います。
検査方法は?
旧来の方法としてはテンシロンテストと呼ばれる神経を作動させる薬を使用して、症状の劇的な改善があるかどうか観察する方法があるのですが、最近ではあまり行われていないと思います。
基本的には血液検査で筋肉と神経の結合部分に不具合を起こす抗体を検出することで判明します。
ほかの免疫系の検査でもいえることなのですが、1割から2割ぐらいの症例では、たとえ病気にかかっていたとしても陰性と判断されてしまうこともあるうえ、検査結果が判明するまで10日前後かかるため、治療に関して苦慮することもあります。
また重症筋無力症では腫瘍性の病変や免疫介在性の疾患、内分泌疾患などがかなりの確率で併発していることが多いため、レントゲンやそのほか全身的な血液スクリーニング検査などが必要になります。
治療法について
治療としては、筋肉と神経の結合部位において、神経を作動させる伝達物質を活性化させる薬剤を投与していきます。
一般的な推奨薬用量は決まっているのですが、個体によって量は異なるため過剰投与による副作用がないかどうかを確認しながら治療を進めていきます。
またステロイドや免疫抑制剤を併用すると、病状を抑える効果が高まることも知られています。
ただ実際のところ、重症筋無力症の犬が動物病院に連れてこられるときには病状は進んでいることが多く、とくに巨大食道症は治療後にも後遺症として残ることが多いと思います。
そのため、自宅でも犬や猫が滑らないような床材の工夫や、食事を与えるときに立位にして与えるなど、普段からの介護も必要となります。
こういった治療を進めていても、腫瘍などの併発疾患があるケースや巨大食道症による誤嚥性肺炎が重度に起こった場合の予後はとても悪いといわれています。
一方で、重症筋無力症の症状が自然に消失してしまう犬もいることもあるため、重症筋無力症の予後を判断するのはとても難しいと思います。
まとめ
重症筋無力症は初期段階ではあまり目立つ症状ではありません。
もし年齢の割には疲れやすい、ちょっとふらふら歩くような感じがしたら、お気兼ねなくご相談ください。