最近のテレビの生命保険のCMで言われているフレーズですが、「日本人の2人に1人は癌をわずらう」ということを言っている広告があります。

どういった統計方法で得たデータのかはわかりませんが、確かに高齢化が進めば、腫瘍を患う確率が高くなるのは自然な流れなのかもしれません。

ペットの世界も同様に高齢化が進んでいるため、ぼくたち獣医師が腫瘍を患った動物たちを診察する機会は増えてきていると思います。

犬や猫で多い腫瘍と言えば、リンパ腫や肥満細胞腫と呼ばれる血液の癌や乳腺腫瘍などがよくみられる病気です。

セカンドセレクトでも多くの腫瘍を患った動物たちを診察する機会も多く、リンパ腫や乳腺腫瘍などの治療を行うことも多くあります。

また一方で、普通の飼い主様にはあまりなじみのない腫瘍もよく診察します。

今回はそんなあまり知られていない心臓の腫瘍についてご説明しようかと思っています。

最近では短頭種の飼育頭数が増えてきているということもあるので、比較的に心臓腫瘍の発生の多いの短頭種の飼い主様、特にフレンチブルドッグの飼い主様のご参考になればと思います。

心臓の腫瘍はどういう感じ?

心臓の腫瘍は基本的には心臓の右側の血管のでは入り口に発生することがほとんどです。

下の写真で言うと、青色と紫色の血管と心臓のつなぎ目のあたりになります。

初期段階からレントゲンで判明することはほとんどなく、診断はもっぱらエコー検査で行います。

割と特徴的な場所にあるので、経験のある獣医師であれば簡単に診断を行うことができるのですが、問題はその腫瘍の種類がどういったものかというところまではわかりません。

心臓の腫瘍の発生源を特定するためには病理検査が必要ですが、心臓に付着しているため、外からの採材は不可能に近いからです。

心臓にできる腫瘍は、良性のものからものすごく悪性度の高いものまで数種類ありますが、その腫瘍の種類によっては予後はかなり変わってきます。

とはいえ、良性の腫瘍だったとしも、できた場所が心臓であるため、生涯無症状というわけにはいきません。

心臓の腫瘍は心臓の右側に発生するため、主に心臓の右心系に症状が出てきます。

右心の機能が低下してくると全身から心臓にうまく血液が流入できなくなります。

最初のうちは無症状なのですが、ある以上の障害が出ると異常に疲れやすくなったり、歩いていたりしているときに尻もちをついたりし始めます。

さらに症状が進むと全身のむくみや、腹水、胸水などが溜まり始め、強い発咳が見られるようになります。

また症状の進行とともに心臓の左心系の機能も低下します。

左心は強力な筋肉によって全身に血液を送り込む役目をしているのですが、腫瘍の影響により心臓の収縮がうまくできず、血液が全身にいきわたらなくなります。

そのため血圧が低下し、時に虚脱を起こし、いきなり失神することもみられるようになります。

症例によっては心嚢水と言って心臓と心膜の間に過剰に水がたまり始め、より心臓の動きが制限されるようになったり、不整脈が頻発するなど様々な症状が出てきます

この腫瘍が悪性だった場合は進行がさらに早くなることも多く、また肺の隣接部に転移を起こしたりするため、さらに予後は悪くなります。

治療法は?

最も積極的な治療はCT検査を行い腫瘍の発生部位を特定することから始まります。

もし腫瘍が右心に限局するものであれば、外科的に切除することが場合によっては可能になります。

外科的な切除が可能であれば切除ののち、同時に心膜を切開し心嚢水の過剰な貯留を予防します。

その後の病理検査と経過を見ながら、抗がん剤の治療に入る・・・。

ざっと説明するとこういった感じなのですが、リスクも高く、また腫瘍の悪性度によっては治療を行っても術後の経過もあまりよくありません。

一方でこういった外科治療以外には有効な手段がないのも事実で、外科手術を選択しないのであれば、後は様子を見ながら対症治療になります。

そのため、多くの飼い主様は治療の選択に苦慮することになります。

セカンドセレクトでの治療法

セカンドセレクトに通われている多くの飼い主様は、外科治療を含めた積極的な治療を希望されない方が多いと思います。

心臓腫瘍はもともと非常に発見がしにくく、自覚症状が何かしら表れているときにはかなり状態が悪化しているため、手術、麻酔処置自体が難しいことが多いからです。

最近ではエコーの精度が上がったため、心臓の病気に関連する診断は以前よりも容易につけやすくなりました。

ただ、まだあまり頻発しない疾患に関しては見落とされてしまうケースも多く、セカンドセレクトに実際に心臓腫瘍で通われている飼い主様の中にも、他の動物病院で原因が特定できずにいたとおっしゃる方も多くいらっしゃいます。

実際に心臓に関する開胸手術はセカンドセレクトでは行っていないので、もしご希望の飼い主様がいらっしゃった場合は、2次診療をおこなっている動物病院にご紹介する形になります。

ただ、先ほども書いたように、発見が遅れるケースも多くあり、その時点で積極的に行える治療の幅があまりないことも多いため、基本的には投薬治療で経過を見ていくケースが多いかもしれません。

セカンドセレクトで診させていただいている大多数の症例では、心臓腫瘍が発見された時点であまり症状が顕著でなければ無治療で観察していきます。

診察時には基本的にエコー検査を行いながら、右心系の機能の確認と、左心系の収縮力などを計測していきます。

最初の段階から投薬を開始してもあまり有効な結果が得られないとされいるため、ぼく自身も心臓の右側の機能がおち、腹水や胸水が見られた場合や、左心系の収縮力が低下した場合のみ投薬を開始することが多いと思います。

腫瘍が悪性だった場合は、周囲に転移していることも多く、発咳がよくみられるため、その場合には心臓の機能と関係なく、鎮咳薬を処方します。

経過としてはその犬によってなのですが、1か月程度で急変を起こして残念ながら亡くなるケースもあれば、1年以上穏やかに過ごしてくれることもあります。

セカンドセレクトではこういった症状に合わせた薬は常備していますので、もしこの記事を読んでみてちょっと心配という方がいらっしゃればいつでもご相談ください。

まとめ

一番最初に書いた通り、この心臓の腫瘍はフレンチブルドッグ、ボストンテリアなどを代表とする短頭種には比較的多くみられる腫瘍です、

こういった犬種がある程度の年齢を迎えたら、いつも行っているような定期的に行っている健康診断に加えて、心臓のエコー検査なども行った方がいいと思います。

検査は特に時間もかかりませんのでご希望の飼い主様がいらっしゃいましたら、いつでもご連絡下さい。

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