長い間獣医師をしていると、ペットの流行る犬種や猫種がその年によっていろいろ変わるなぁとしみじみ実感することがあります。

獣医師にとって、犬種や猫種の違いはかなり重要です。

なぜなら、猫や犬の種類によってなりやすい病気が違ってくるからです。

そういった病気の中でも有名なものの一つとして、椎間板ヘルニアがあげられると思います。

ミニチュアダックスで極めて多いこの病気は、突如として起こり、症状もいきなり重篤化します。

以前に比べると若干治療の進め方が異なるので、今回はそこについてもご説明したいと思います。

ミニチュアダックスでなぜ多い?

椎間板ヘルニアの記述は、ネット上でも非常に多いのですが、ミニチュアダックスでなぜ多発するのか?ということを簡単にまとめるとミニチュアダックスだからとしか言いようはありません。

胴長短足の独特な形は、軟骨が変形しやすいからこそ出てくる形質です。

椎間板自体が軟骨でできているため、たとえそのミニチュアダックスが太っていようが痩せていようが、歩いていようが走っていようが、ダックスでいる限りは椎間板ヘルニアからは逃れられません。

またその変形の仕方も、椎間板が徐々に変形するというよりは、外側がはじけて軟らかい中身が「プチュ」っと一気に出るような感じになります。

椎間板の変形は直接脊椎神経に影響するため、「プチュ」っとでた椎間板の中身の量によっては重篤な麻痺がいきなり起こります。

他の犬種ではならないの?

ミニチュアダックスと同じように軟骨が変形しやすい犬種はいくつかあります。

最近人気の犬種としてあげらるフレンチブルドッグも椎間板が変形しやすく、椎間板ヘルニアの多い犬種だと思います。

また、トイ・プードルも比較的椎間板ヘルニアが多い犬種だと思います。

ぼくが今まで経験した中で、これらの犬種以外ではあまり重篤な椎間板ヘルニアの症例はあまり見たことがありません。

椎間板ヘルニアの理想的な検査方法はMRIとなるのですが、人間に比べると検査がやや煩雑になるので、症状から椎間板ヘルニアが疑わしければすぐに検査というわけにはいかないため、全頭についてMRIを実施することはできません。

そのため、他の犬種で検査を行えば、椎間板ヘルニアはどの犬種でも起こりうるのかもしれませんが、こと症状の重篤さで言えば、ミニチュアダックス、フレンチブルドッグ、トイ・プードル以外の犬種にはほぼ見られないと思います。

手術をした方がいい?するべきなの?

大前提として以前と違い、椎間板ヘルニアの手術はほぼどの病院でも行えるようになったと思います。

椎間板ヘルニアの手術に使用する機器も性能が向上しており、かつ椎間板ヘルニアはかなり多い症例なので、獣医師自体の経験値も増えてきたことがその要因の一つだと思います。

またMRIのような大型の検査機器も、都内であれば多くの施設が保有しているため、手術までに要する時間も大幅に短縮されました。

そういった背景もあるので、現在では以前よりも症状が軽い段階から手術が推奨されるようになっています。

10年程度前であれば、ほとんどの病院では両後肢がマヒしている程度では最初の段階からあまり手術を積極的には勧めていなかったと思います。

もちろん一部の専門医や外科を積極的に行っている病院であれば、以前から早期の段階から手術を行っていました。

ただ、たいていの獣医師は、排尿の麻痺が起こった場合や痛覚がマヒした場合などは内科的治療に比べると手術の治癒率は非常に大きな差が出てくるため、この段階で手術に踏み切るというのがほとんどでした。

しかし先ほど書いた通り、最近ではほとんどの動物病院で、歩行が困難になった状態でできる限り早期に手術を勧めるのが一般的です。

それだけ技術の向上があったという喜ばしい要因が背景にあるのですが、困ったことに特にインターネットの記事などは、こういった状況が起こる以前に書かれた記事が多いため、今の動物病院での説明と若干のずれがあると思います。

この点で困惑されている飼い主様が多くいらっしゃるのも事実で、「手術をした方がいいのかどうか」という相談よりも「手術をしないといけないのか」どうかという相談をよく受けることが多くなりました。

ここからはあくまでもぼく自身の超個人的な意見です。

ぼく自身は以前に勤めいていた動物病院で椎間板ヘルニアの手術の執刀はかなり多くの件数を経験してきました。

以前勤務していた動物病院はどちらかと言えば積極的に手術をお勧めするタイプで、割と早い軽い症状の段階から手術を選択肢の視野に入れていました。

手術に使用する機器も当時では最新の機器があったため、他の動物病院で行うよりもかなり術創も小さく、手術によって脊椎にかかるダメージもかなり少ない方だったと思います。

今現在、5年以上前に自分が椎間板ヘルニアの手術を行い、そこ仔達が老齢犬になってからも診察を担当させていただく機会が多いのですが、手術を行った犬たちは他の老犬に比べると背中が丸く変形しやすいなぁというのが率直な感想です。

もちろん手術前には歩行が出来なかったり、排尿麻痺などが起こっていたものが、術後に日常生活を普通に過ごせるところまで回復しているわけですから、手術は必要だったと思います。

ただ、年老いたその犬たちの現在を診ていると、手術を行わずに治癒した犬たちの方が、見た目は若そうなので、手術以外で治る方法をもう少し模索したほうがよかったかなと正直に感じています。

手術をしても治らなさそうな症例は?

たくさんの手術を経験していると、医学的な根拠はあまりないのかもしれませんが、手術をしても治りにくそうだなぁとなんとなく予測できる症例も出てきました。

以下にあげるような椎間板ヘルニアの症例は、個人的には術後の治癒経過が極めて悪いと感じているので、何かしらの手術へのリスクがある犬に関しては、手術はあまり選択しない方がいいかもしれないと考えています。

  • 脊髄の炎症の範囲が広範囲である犬
  • 椎間板の圧迫の程度は強くないのにもかかわらず、痛覚麻痺が起こっている犬
  • トイ・プードル

勿論、やってみないとわからないのですし、あくまでも医学的な根拠のないぼくの経験則のみの意見ですので、まだ年齢が若く、手術を行った方がいい状態であれば担当医の先生の言葉を信じていただくのがよいと思います。

まとめ

【実際の往診治療風景】椎間板ヘルニアになってしまったMダックス。手術ではなく往診で治療するとなるとこんな感じ。

今回の記事では病気の説明というよりは、手術を行ったほうがいいのかというところを中心にごせつめいさせていただきました。

セカンドセレクトでは先ほども書いた通り、椎間板ヘルニアの手術は他の動物病院と同等以上の技術力で対応することはできますが、早い段階からの手術はあまりお勧めしていません。

歩行麻痺があったとしても、排尿麻痺がなければステロイドの投薬とリハビリによって割と問題なく回復することがほとんどです。

したがって排尿麻痺があれば手術をやはりお勧めしますが、歩けない程度であれば慌てず1週間から1か月程度は経過を見ることをお勧めしています。

もしご自宅で飼っている犬に椎間板ヘルニアの診断が下り、治療にお悩みを感じたら・・・相談だけでも構いませんのでいつでもお気軽にご相談ください。

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