人間の体の部位には、その形や機能から動物の名前がついたものがいくつかあります。

猫舌、豚鼻、鷲鼻、猫目、鰐口などなど、その部位の形状を動物に例えたもので、比喩表現として使用されています。

一方で医学的な用語としてこのような比喩表現が用いられた部位はあまり多くはないのですが、その中でもっとも有名で、もっとも獣医師を悩ます場所の一つとして「馬尾」と呼ばれる場所があります。

馬尾は犬や猫の尾の付け根のあたり神経を表わし、しばしばここを何らかの理由で損傷し、様々な症状をかかえた動物たちが来院します。

これらを総称して「馬尾症候群」というのですが、今回はこの聞きなれない病気についてご説明したいと思います。

馬尾って何?

馬尾とは正確に言えば腰椎と仙椎の場所にある神経の束のことを指します。

口語的に言うと、脊椎の中に入っている神経は尾の付け根あたりから無数の細い神経に枝分かれして肛門周囲や膀胱、後肢の方に向かっていきます。

この細い枝分かれしている神経の束を馬の尾に例えて馬尾と言っています。

馬尾症候群て何?

馬尾症候群はこの馬尾が何らかの理由で圧迫されて起こる病気です。

割とよく見られる症状が、お尻のあたりを触ると嫌がる仕草が見られるというものです。

症状が軽度の場合は何もしなければあまり気づかない程度か、もしくはたまに痛がる仕草を見かける程度です。

症状がよくみられるようなるにつれて、大抵の場合は尾が上がらなくなったり、場合によっては動かなくなってしまうこともあります。

さらに馬尾に含まれる神経は下半身の様々な場所を統括する神経なので、圧迫の重度によっては排尿麻痺、排便障害、後肢の麻痺などが起こります。

こういった麻痺は激しい疼痛とともに起こることが多く、ほとんどの動物は食欲がなくなり、沈鬱な状態が続きます。

馬尾が圧迫されているかどうかはレントゲンでは明らかにすることができないため、全身麻酔下でのMRI検査が必要になります。

ここで困ったことに、症状が全くないような動物でも加齢により馬尾が圧迫させれている画像を得ることがよくあります。

明らかな神経症状がある場合は診断はつきやすいのですが、症状が軽微な場合は果たしてそれが馬尾症候群によるものか、また別の原因なのか判断するのが難しいことがあります。

ですので、セカンドセレクトでは馬尾症候群と思わしき症状が出た場合には、まず投薬により状況が回復するかどうか観察し、経過が思わしくない場合にMRI検査をお勧めしています。

犬の馬尾症候群

犬の馬尾症候群は主に加齢による脊椎の変形や椎間板ヘルニア、また脊椎内で発生した腫瘍によって起こることが多いと思います。

ほとんどの場合は疼痛が頻発する症状であり、お尻を痛がる、尾を振らないなどの症状がよくみれれます。

多くの場合は投薬により症状は改善し、軽度の排尿麻痺や排便障害があったとしても、鎮痛剤を使用することによって症状は改善します。

後肢の麻痺が起こるケースはそれほど多くはないのですが、腰部、尾部の激しい疼痛とともにどちらかの後肢の筋肉が著しく委縮していることがよく見られます。

こういった場合は内科的な治療では十分な効果が得られないことが多くあります。

投薬で症状の緩和が難しい場合は、先ほど書いた通りMRI検査を実施し、外科手術を行うかどうかを判断していきます。

外科手術は圧迫されている馬尾の部分の脊椎を削り取り、圧迫を解除するという方法なのですが、手術による後遺症も多く、また後肢の麻痺が改善しないケースもあるため、まさしく最後の手段となることが多いと思います。

猫の馬尾症候群

猫の馬尾症候群の場合はほとんどの場合、落下などによる馬尾の部分の損傷によって起こります。

そういう意味では経験上、馬尾症候群を患う猫の大多数は肥満気味の猫が多いと思います。

ある日突然に猫が動かなくなり、丸くなってどこか痛がっている様子がみられ、排尿も半日以上滞っていることで、飼い主様が気づくケースがほとんどです。

猫の馬尾症候群の場合は、尾の付け根の激しい疼痛と同時に尾の先には感覚もなくなっていることも多く、尿漏れが見られるようになります。

ステロイドを使用し経過を見ていくことがほとんどで、外科的な手法は予後があまりよくないため、猫の場合は犬のように外科的な方法を用いることはほとんどありません。

多くの場合は数日ののちに尿漏れが改善し、通常の状態に戻れることが多いのですが、何割かの猫は症状の改善に至らず、疼痛は治まったものの排尿障害が後遺症として残ることがあります。

この場合は飼い主様が膀胱を圧迫して排尿を促すような介護が必要になります。

セカンドセレクトでもそのような猫の介護をサポートするために、往診を含めた色々なケアを行っていますので、ご不安を抱えた飼い主様がいらっしゃいましたら、いつでもご相談ください。

まとめ

馬尾症候群は動物病院では比較的よくみられる疾患です。

慢性的な経過をたどることも多く、生涯にわたる治療が必要なことも多くあります。

セカンドセレクトの特徴としては、投薬以外にも鍼治療などによってリハビリをサポートさせて頂くこともできますので、もしお尻のあたりを痛がる様子に気づかれたら、いつでもお気兼ねなくご来院ください。

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