猫の病気の中でもメジャーな病気の一つとして、腎不全があげられます。

ほとんどの猫が高齢になると、腎臓の機能が低下し、食欲不振、吐き気、などを引き起こします。

動物病院に来院する猫の病気の中でも割合としては非常に多く、獣医師用の腎不全のガイドラインも確立されていますが、残念ながら完全な治癒はありません。

この記事ではそんな猫の慢性腎不全についてご説明したいと思います。

猫はなぜ腎不全になりやすい?

よく聞く話ですが、腎臓は一度悪くなるとよくならないということが言われます。

その一方で、腎臓は片方なくなっても大丈夫という話も聞きます。

一見相反するような話ですが、実際どちらも間違った話ではありません。

飼い主様のほとんどの方が知っている通り、腎臓は尿を生成する臓器ですが、正確に表現すると尿を濃縮する臓器です。

血液から濾されて腎臓に受け渡された多量の水分と体内中の様々な物質は、必要なものを再吸収され、不必要なものは体外に出すということを、分子レベルで行われています。

これを人間が機械でこれを行おうとすると、とんでもない大掛かりな機械になってしまうところを、卵よりも一回り小さいぐらいの大きさで簡単に行ってしまうのです。

実際には腎臓は小さな腎臓(ネフロンと呼ばれます)が無数に集まって腎臓という臓器を形作っており、その小さな腎臓のひとつひとつで尿は毎日毎日24時間作られて集められています。

このとても小さな腎臓は、先ほども書いた通り、とてつもなくち密な機能を持っているため、何かの理由で一度壊れてしまうと再生はしません。

壊れれしまった小さな腎臓は他の細胞に置き換わってしまい、ち密な機能は失われてしまします。

これは体にとっては非常に致命的な問題です。

体の重要な役割をしている腎臓が再生できないとすると、ちょっとしたことですぐに腎不全が引き起こされ、生命の危機となるからです。

そこで進化の過程で、腎臓は小さな腎臓をもとからかなり余分に持つという形で、そのリスクを軽減するという方法を取ることで、その欠陥を補うことができるようにになったのです。

これが腎臓は片方なくなっても大丈夫と言われる所以であり、小さな腎臓を100%の個数持っている腎臓も、50%失ってしまった腎臓も、尿を生成する能力は同等に維持されます。

これを腎臓の「予備機能」といって、実際には70%程度まで失われていても、機能は変わらないと言われています。

この小さな腎臓の数は動物種によって異なり、人間の場合は片方の腎臓に100万個、犬の場合は60万個存在するとされています。

一方で猫の場合は40万個しか存在せず、腎臓の持っている予備機能そのものがほかの動物種に比べると少ないのが腎不全になりやすい理由とされています。

また、その小さな腎臓であるネフロンは腎臓の外側にあるのですが、その位置によっても障害が受けやすい場所とそうでない場所があり、猫の場合はそのほとんどが、非常に傷害の受けやすい場所にあることがわかっています。

ネフロンの受ける障害は、日々の生活で蓄積されていくものであり、年齢とともに自然と予備機能は失われていきます。

結果として、猫は加齢により腎不全になる確率が高くなるため、3頭に1頭は腎不全になると言われています。

検査の方法は?

一般的な検査方法としては、血液検査があげられます。

尿素窒素、クレアチニンといったものが代表的な項目になりますが、カリウムやリンの血液中の濃度や貧血を起こすこともあるので血球検査を行うこともあります。

最近ではSDMA(対称性ジメチルアルギニン)と言われるより感度の高い項目もルーチンで調べることもできるようになりました。

また、尿検査も腎不全を起こした際、もしくは起こしている可能性がある場合は実施するべき検査となります。

主に尿の濃さとタンパクの量を計測します。

これらの値は、場合によっては血液検査よりも感度が高い検査になることもあるので同時に行うのが理想だと思います。

レントゲンやエコー検査などの画像診断も定期的に行った方がいいと思います。

頻度はその猫の症状によってなのですが、初回にはできれば実施したほうがいいと思います。

もし腎不全になってしまったら?

最初にも説明しましたが、腎臓は一度機能が失われるとその機能は2度と復活しません。

したがって治療の目的は主に腎不全の進行を遅らせ、何かしらの症状が出ている場合はそれを緩和することが最大の目的です。

腎不全は初期の場合、ほとんどその症状はわかりません。

特に猫の場合はかなり症状が進行しなければ気づかないことも多く、またそれほど頻繁に動物病院に連れて行くこともあまりないので、発見がしばしば遅れるケースもあります。

理想としては血液検査上で異常が認められるようになったら、処方食を開始することが推奨されていますが、なかなか猫の嗜好性にかなった処方食は見つかりにくいと思います。

これは猫の特性でもあるので、食事療法に関してはあまり無理をしないほうがいいと思います。

また尿にタンパクが見られるようになると、先ほど説明した小さな腎臓にたんぱく質が付着し、さらに炎症と破壊が進んでしまうため、そういったものから腎臓を保護する薬を服用したほうがいいと思います。

こういった薬は液体の猫用のものあるため、昔に比べればまだ投薬しやすいと思いますが、猫によっては困難なケースもあるので、それほど無理をしなくてもいいと思います。

少し調べれば猫の治療に関してはガイドラインに合わせ、色々やるべきことがありそうな感じに思えますが、結局のところ相手が猫なので、猫に合わせて行うしかないのではと個人的には思います。

以前、当院の往診用のブログの記事で、猫の腎不全の治療について書いていますので、もしよければ参考にしてみてください。

【とある往診風景】腎不全の高齢猫。往診動物病院でのケアってどんな感じになるの?

また補助的に食事中のリンを吸着するサプリメントも可能なら行ったほうがいいと思います。

過剰なリンの摂取は腎不全を悪化させることがわかっているからです。

活性炭による吸着剤も古典的なサプリメントにはなりますが、始めやすく、副作用がない点では気軽に始めらると思います。

腎不全が進行し、いよいよ食欲不振や嘔吐が目立つようになったら、積極的な緩和療法を始めてもいいと思います。

腎不全が進行すると脱水が顕著に見られるようになるので、皮下補液、皮下点滴といった方法で背中にある程度の水分を含んだ注射を定期的に行います。

個人的には慢性の腎不全を起こした猫に入院などの処置はお勧めしていません。

完治というものがないため、できる限りストレスのない自宅でできることをしていただいた方が、結果的に良い方向に進むことが圧倒的に多いからです。

また、慢性的な胃炎や便秘もおこしがちなので、こういった併発するような症状が出た場合には、ある程度は積極的に治療を行った方がいいと思います。

もし通院に何らかのストレスを感じているようであれば、当院では往診も行っていますので、お気兼ねなくご相談ください。

まとめ

猫にとって腎不全は老衰とほぼ同義だと思います。

他の病気に比べると、あまり顕著な臨床症状が出ることなく、だんだんと衰えていくからです。

それでも何とかあがらっていきたいのも本音のところだと思います。

早期発見のための検査から実際の治療まで、ご質問などあれば何なりとおっしゃってください。

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