以前ほどではなくなったのですが、動物病院で診療をしているとたまに先天性の疾患に出会うことがあります。
これらの病気では、犬種や猫種による遺伝的な背景があるものや、突発的に疾患をもって生まれてくる動物たちもいます。
そしてそれらの病気の中ではすでに重篤な症状が出ているものもあれば、全く気付かないものもあり、こういった気が付かれない病気は、何かの検査をした時にたまたま見つかることもあります。
今回はそういった病気の中でも代表的な病気、「門脈体循環シャント」についてご説明したいと思います。
門脈体循環シャントとは?
肝心という言葉がある通り、肝臓は臓器の中でも非常に重要で、かつ多岐にわたる働きをしている臓器です。
その重要な肝臓の働きの一つに、解毒作用というものがあります。
日常生活の中で体の中では全身の細胞が代謝をする過程で、不要な物質が発生します。
また食事をとると胃腸から食べ物が吸収されるのですが、食べ物は分解される過程で、栄養素だけが吸収されるのではなく、毒性のあるものでも同時に吸収していきます。
こういった体にとって不要もしくは有毒な物質は肝臓に送られて、有用なものに作り替えられたり、無毒化されます。
具体的に言うと、腸や膵臓や脾臓と言った内臓から出た血液は、肝臓の付近で門脈と言われる細い血管の束になって肝臓に送られます。
門脈を介して運ばれた血液は肝臓を通り、最終的には心臓に戻され、肺から酸素を供給され、再び全身に血液が供給されます。
門脈体循環シャントとは、本来肝臓を経由しないといけない血管の一部が肝臓を通らず、肝臓から心臓につながる血管に直接流れ込む疾患です。
肝臓によって有用化、無毒化されなかった物質が直接心臓から全身へ送られてしまうため、様々な症状が出てしまいます。
門脈体循環シャントの症状は?
門脈体循環シャントによって症状が出る多くの場合は1歳以下の若齢犬が多いと言われています。
見た目は明らかな発育不全があり、兄弟犬の中でも体格は著しく小柄なことが多いと思います。
また門脈体循環シャントが存在した場合の具体的な症状とすると、食後に嗜眠や徘徊が始まったり、場合によっては痙攣や昏睡をが見られることがあります。
これは食事中に含まれるたんぱく質が分解され、腸から吸収されるときに発生するアンモニアが、本来肝臓で分解されるのですが、その一部が肝臓を通らず体内を回ってしまうため起こります。
アンモニアは強力な神経毒で、体にとっては非常に有害な物質なため、長期的なアンモニアによる弊害は、場合によって死を招くことがあります。
ただ門脈体循環シャントが存在したからと言って、必ずしもこのような症状が出るとは限りません。
中には症状が全くないような個体もいるため、見逃されてしまうケースもあります。
まれなケースではありますが、臨床的にはこのような見逃されてしまった個体に麻酔処置などを行ってしまった場合、思わぬ事故を巻き起こすケースもあるため、気を付けないといけない疾患の一つだと思います。
検査方法は?
門脈体循環シャントを持っている犬だとしても、一般的に行うような血液検査には、肝臓の値も含めてほぼ異常値が見られないことが多いと思います。
腎臓の値としてよくみられる尿素窒素やアルブミンタンパク、コレステロールなどは肝臓で作られるため、これらの値は正常よりも低い値を見られることがありますが、必ずしもそうであるとは限りません。
今のところ最も感度がよい検査としては食前、食後2時間後に総胆汁酸と呼ばれる数値と、アンモニアを測定していきます。
総胆汁酸は肝臓で再合成されるため、門脈体循環シャントが存在した場合は必ず数値の異常が見られます。
ただし、門脈体循環シャントが存在していない場合でも異常値が見られることが多いため、これらの検査の総合的な判断から病気の疑いが強い場合にはCT検査を行い、実際に異常な血管が存在しているかどうかを調べます。
明らかな異常血管はエコー検査でも発見することはできますが、セカンドセレクトではエコー検査は感度としてはあまり高くないため、CT検査をお勧めしています。
治療法について
基本的に内科療法のみで症状をコントロールすることは難しいとされています。
低たんぱく質の食事をとらせる、アンモニア産生の腸内細菌の発生を抑えるなどが代表的な方法ですが、症状が顕著に表れている犬には、大きな効果は期待が出来ません。
よく言われる話なのですが、門脈体循環シャントは異常血管が肝臓の外にある場合は外科手術が可能であり、唯一の治療法だと言われています。
肝臓の中に異常血管がある場合には、手術は困難と言われていますが、最近では血管を残しながら肝臓の細胞を乳化させる医療機器もあるため、以前よりは手術対応範囲が広いとは思います。
セカンドセレクトでは残念ながら門脈体循環シャントの手術にはご対応できませんので、診断まで至った場合には対応可能な2次診療の病院をご紹介しています。
まとめ
門脈体循環シャントのような症例は時には飼い主様のご負担を大きくするとがあります。
できる限り動物だけでなく、飼い主様にもご負担が少ないような治療法をご提示していきたいと思いますので、何かお困りの際はお気兼ねなくご相談ください。