自分のペットが突然に活動性を失ったり、食欲がなくなったりすると慌ててしまうことも多いと思います。
こういった場合、心当たりもなく、動物病院に連れていこうか迷っていると、どんどん症状が重くなることがあります。
下痢や吐き気などの特徴的な症状と異なり、食欲不振などの不特異的な症状は、初期段階では飼い主様だけでなく、多くの獣医師を悩ますことが多く、実際に自分も診断に至らなかったことたびたびもあります。
今回はこういった悩ましい病気の中でたまに見かける病気、心タンポナーゼについてご説明したいと思います。
心嚢水って?心タンポナーゼとは?
心臓は強い心臓の筋肉の力で全身に血液を送り続けています。
心臓が効率よく血液を送り出せるよう、筋肉の発達だけでなく、哺乳類の心臓の内部は非常に機能的に発達しています。
また心臓の外部でも心臓がスムーズに動けるように分化した機能が色々とあるのですが、その一つが心膜や心嚢水になります。
心膜は心臓を包み込む薄い膜ですが、1枚の膜が2重に折り重なったもので、折り重なった内部の空間に液体を少量含ませています。
この液体は心嚢水と呼ばれ、普段は心臓がスムーズに動くための潤滑油として機能しています。
心嚢水は正常な犬や猫でも少量存在しているのですが、レントゲンやエコー検査で見えることはほとんどありません。
特にエコー検査で心嚢水の貯留が明らかに見えるときは、異常な心嚢水の貯留があると判断されます。
心膜や心臓を一番外側で包む心嚢は非常に強い膜であまり伸縮性がありません。
心嚢水が異常に貯留してくると、その圧によって心臓がうまく拡張できなくなるため、心不全を特徴とした様々な症状が出始めます。
このような状況を心タンポナーゼと言います。
原因は?
心嚢水の異常な貯留はほとんどの場合、出血性によることが多いとされています。
出血性の心嚢水が溜まる理由としては腫瘍が原因であること多くあります。
大抵の場合、心臓の右側に腫瘍が発生することが多く、エコー検査によって判断がつけられることもあります。
腫瘍の種類は悪性度の高いものから、進行が緩やかなものまでいろいろありますが、腫瘍の種類を簡易的に調べる方法はなく、あくまでも外科的に切除した腫瘍に対して病理検査を行うしかありません。
また腫瘍性以外でも何ら理由なく起こる出血性心嚢水もあり、中高齢の大型犬ではたまに見かける症例です。
その他、まれなタイプの心嚢水の貯留としては感染性のものがあげられますが、正直なはなし、自分はいまだに診たことはありません。
心タンポナーゼの症状
異常に貯留した心嚢水の最大の問題点は、心臓の拡張を抑制することです。
極少量であれば目に見えての症状はあまりないのですが、心嚢水の増加に伴い、活動性の低下、食欲不振などが見られます。
さらに心嚢水がたまり、心膜を含めた心臓の径が大きくなると、発咳や食道圧迫による嘔吐が見られるようになります。
いよいよ心嚢水が限界まで溜まり、心臓の内圧以上の圧が心嚢に発生した場合、顕著な心不全の症状を引き起こします。
胸水や腹水は一般的によくみられる症状であり、心拍出量の低下からの失神や呼吸困難が見られるようになります。
治療について。外科手術は適用?
心嚢水が貯留し、心タンポナーゼを起こした犬や猫には有効な薬はありません。
経皮的に長く細い針を差し込み、直接心嚢内に針を刺入させ心嚢水を吸引するしかありません。
心嚢水はまた徐々にたまり始め、再度心タンポナーゼを引き起こすに至るまで早ければ1週間程度、場合によっては半年以上開くこともあります。
多くの獣医師の経験則から、2,3回心嚢水除去を行い、症状が鎮静化すればよし、鎮静化しなければ外科的に心嚢膜を切開する方法を選択します。
心嚢膜を切除したすることで、心嚢水をより広い胸腔内に漏出させ、胸腔から自然吸収させることで心嚢水の過剰な貯留を防ぎます。
腫瘍が認められたケースでも、心臓の右側に限局していれば手術は可能だと言われています。
セカンドセレクトでは胸腔内外科は現在のところ、対応可能な動物病院をご紹介しています。
まとめ
心タンポナーゼが起こった際は緊急対応が必要になります。
心嚢水除去はいつでも可能ですので、この記事を読んで「ひょっとして・・」と思った飼い主様がいらっしゃいましたら、いつでもご来院ください。