貧血という言葉は誰もが知っている医学用語だと思います。
臨床現場では貧血という症状は厄介なことがよくあります。
その理由の一つとして原因がどこにあるのか、すぐには判断が出来ないことがよくあるからです。
そして動物病院での診察において、貧血は犬や猫によくみられる症状です。
今回ご説明したいのは、数ある貧血の原因の中で意外と多い病気、免疫介在性溶血性貧血というものです。
セカンドセレクトに通院されている犬や猫の中にもこの病気を患っている仔は多くいるので、この記事を読んで参考になった飼い主様がいらっしゃいましたら幸いです。
免疫介在性溶血性貧血とは?
免疫介在性溶血性貧血はその名前通り、免疫が絡んで貧血が起こります。
血液中に含まれている赤血球の膜に対する抗体が何らかの理由で産生され、過剰に赤血球が壊されることにより貧血が急速に進んでいきます。
元気や食欲がいきなりなくなる、息遣いが荒いなどの症状がみられて動物病院に来る飼い主様がほとんどなのです。
また口の粘膜や舌の色が白いことなどに気づかれる飼い主様もいらっしゃいますし、場合によって尿の色が黄色から橙色に変化したことに気づき、慌てて来院する飼い主様もいらっしゃいます。
原因は?
免疫介在性溶血性貧血の原因には様々な原因が言われていますが、明らかに病気にかかりやすい犬や猫の傾向があるので、遺伝的なものも関与していると考えられています。
猫には種差はないのですが、犬ではコッカーやミニピン、ミニチュアシュナウザー、マルチーズなどの人気犬種が好発犬種となります。
また雌や去勢犬は未去勢犬よりもなりやすいと言われているので、去勢するデメリットの一つとして考えられています。
またこの病気にかかった3割程度の犬では、病気を発症する4週間以内にワクチンを接種しているというデータもあり、ワクチンの重篤な副作用の一つとして考えられています。
少し話はそれますが、セカンドセレクトではこういった日常的に接種されているワクチンの副作用を避けるべく、犬においてはワクチンの抗体価を計測することをお勧めしています。
免疫介在性溶血性貧血は特定の感染症によって引き起こされることもよく言われているのですが、都内に在住している犬であれば、あまり遭遇することはないものばかりです。
一方猫では感染症によって引き起こされるケースは割とよくあり、猫伝染性腹膜炎などのウイルス性疾患では貧血の進行が進む原因となります。
検査の方法は?
免疫介在性溶血性貧血を確実に診断する方法は現在のところありません。
大抵の場合、クームステストという検査を行い、赤血球の膜表面に抗体があるかどうかを調べて判定をします。
ただクームステストは感度が非常に高い検査ではなく、免疫介在性溶血性貧血の犬や猫でも半数程度は陰性判定になってしまいます。
その他、この病気だけにみられるような特異的な血液検査上の異常値もないため、クームステストで判定できなかった貧血の症例は一通りのスクリーニング検査を行い、それでもその他の原因がないと判断された場合に試験的な治療を開始していきます。
ただ実際には、クームステストに関しては外注検査のため結果が出るのに最大で2日かかるので、免疫介在性溶血性貧血が疑わしい症例に関しては同時にすべての検査を行います。
クームステストに合わせて行う検査は、レントゲン、エコー検査、血液検査がその主な内容ですが、おおよそ20000円から30000円程度の検査費用になります。
治療法について
基本的にはステロイドを内服として投薬しながら治療していきます。
ステロイドによる治療開始後3日程度で回復してくることが多いのですが、中には難治性の場合もあります。
特に猫の場合はこの病気を引き起こす不治の基礎疾患があることが多く、非常に予後は厳しいことが多いと思います。
セカンドセレクトではステロイドのほかにも、日本で認可されていないものも含めた様々な免疫抑制剤を常時取り揃えているので、手厚い治療を施すことが可能です。
たまに完全寛解といって、薬を使用しなくても貧血が見られない状況になることもあるのですが、ほとんどの場合はステロイドやその他の免疫抑制剤をやめることはできません。
1か月にかかる治療費も薬によって様々です。
ステロイドのみで維持できる場合は月に4000円程度で済むのですが、服用しないといけない免疫抑制剤の種類によっては、小型犬でも3~4万円程度かかることもあります。
できる限り飼い主様のご負担を減らした治療をしていきますので、ご不明な点があればいつでもご質問ください。
まとめ
通常貧血の進行は緩慢で、なかなかご自宅で気づくことはないのですが、免疫介在性溶血性貧血はその進行が急激で、かつ重篤化することがよくあります。
ご自宅で飼われている犬や猫の下の色が白いなどの症状に気づいたら、いつでもご来院ください。