最近の傾向として、ペットショップでペットを購入した場合、膝蓋骨脱臼や水頭症など様々な先天性の疾患について、注意事項を添えられて販売するケースが多くなったと思います。

もちろんそのほとんどが特に治療の必要もないのですが、飼い始めの飼い主様にとってはよくわからないということもあり、心配になって受診されるケースが多くなってきました。

そういった販売当初に添えられたコメントの1つに鼠経ヘルニアという項目があり、まぁまぁな割合で軽度の鼠経ヘルニアという注意書きを目にすることがあります。

今回はそんな鼠経ヘルニアについてご説明したいと思います。

鼠経ヘルニアとは

基本的に鼠経部は太ももの付け根にあります。

鼠経部は主に2つの薄い筋肉と1つの靭帯で構成されており、その3つの重なった場所にはわずかな隙間があり、その隙間から動脈や静脈、リンパ管や神経などが腹腔内から太ももの内側へ走行しています。

鼠経ヘルニアは本来であれば非常に狭い隙間が、何らかの原因によって大きい隙間になって腹腔内から、腹腔内脂肪などが皮下に出てしまうことを指します。

たいていの場合は先天性のことがほとんどだと思います。

鼠経ヘルニアの症状は?

基本的にどの犬や猫も鼠径部からは少量の腹腔内脂肪が出ています。

一方で鼠経ヘルニアと言われる個体は、明らかに腹腔内から出てくる脂肪の量が多く、たいていの場合は左右の鼠径部の見た目は大きく異なっています。

鼠径ヘルニアによって腹腔内から出てくるものは脂肪だけでなく、隙間が大きければ腸や膀胱なども出てしまうこともあります。

ただ鼠経ヘルニアとして臓器が逸脱しているだけであれば特に症状が出ることはありません。

特に脂肪だけであれば症状が出ることはめったにありません。

問題は腸や膀胱が腹腔内から出ている場合です。

もちろん、腸や膀胱が出ているからと言って必ずしも症状が出るわけではないのですが、出ている臓器の状況によっては、腸閉塞や尿道閉塞を起こすこともあります。

特に膀胱が逸脱している場合は、長年問題なくても膀胱に尿が貯尿している状況によって突然閉塞を起こすこともあるので注意が必要です。

またこれらの症状が出てしまう確率は、陥頓と言って飛び出した臓器を指で押しても押し戻されないような状態のときは圧倒的に高くなるため、膨らんでいる場所が固くなっているようであれば早めに受診する必要があります。

以前に見た症例では鼠経ヘルニアとして子宮が脱出していた上に、その子宮が子宮蓄膿症になっていたなんてこともありました。

手術は必要?

色々な意見はあると思いますが、手術は前向きに検討しておいた方がいいと思います。

理由としては、同じヘルニアでも会陰ヘルニアとはことなり、手術後に再発するリスクがかなり低いからです。

もちろん、発見次第すぐに手術を行う必要は必ずしもないのですが、特に飼育開始時からあるような鼠経ヘルニアであれば、ほとんどの場合、避妊手術や去勢手術と同時に行うことをお勧めしています。

また、腸や膀胱が逸脱しているような場合も、何かしらの症状が見られる前に手術をすることをお勧めしています。

手術は飛び出している臓器をおなかの中に戻したうえで、再度出てこないように鼠径部の隙間を縫合する手術になります。

1文で説明すると簡単なように思えますが、鼠径部から飛び出ている臓器は周りの組織と癒着しているため、注意をしながら剥離しないといけません。

また鼠径部には太い血管が存在しているため、隙間を縫合するときなどは割と手間がかかるので、大きな鼠経ヘルニアでなくても少し手術時間がかかることもあります。

とはいいつつも、鼠径ヘルニアは自然治癒で治るということはなく、治すためには手術が必要であるため、手術自体にリスクがない場合には、手術をした方がいいと思います。

まとめ

犬や猫を飼育始める時には色々な不安があると思います。

セカンドセレクトではそういった飼い主様の不安を少しでも和らげてあげられるような診察を目指しています。

もし何かお困りのことがありましたら、いつでもお気兼ねなくご相談下さい。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう