ある宣伝のフレーズを借りるのであれば、日本人の2人に1人は癌を患うようになったそうです。
生活習慣、環境、ストレス、そして高齢化などがその要因だと考えられています。
ペットの世界でも同じようなことが言われており、実際に動物病院で診察をしていても腫瘍を患ってしまった動物たちの数は増えてきていると思います。
そんな腫瘍のなかでも、犬や猫で最も頻繁にみられるものとしてあげられるのが悪性リンパ腫と言われるものです。
血液中にあるリンパ球が癌化し、様々な症状を出すこの病気は、抗がん剤の治療によい反応を示すことも知られています。
今回はそんな「リンパ腫」についてご説明したいと思います。
そもそもリンパ球って何?
リンパ球は血液に含まれている細胞成分で、体を守る免疫の中枢の役割を果たします。
一般的にリンパ球は感染を起こした細胞を捕食し溶解するT細胞や、抗体を産生することで入ってきた異物を排除するB細胞があります。
T細胞はその他にも免疫を増強したり、逆に弱めたりする免疫の司令塔の役目も果たしており、様々なタイプに分類することが出来ます。
リンパ球は血液の中に常時浮遊しているのではなく、体のいたるところにあるリンパ節で成熟し、体に異変が起きるまで待機しています。
リンパ節は体表にあったり、腸管の中や腸間膜にあったり、肝臓や肺などにも大きなリンパ節を形成しているほか、ほぼすべての臓器に小さなリンパ節を形成しているため、リンパ腫は体のほぼすべての臓器で発生します。
リンパ腫は発生した臓器によって型がわかれており、その発生場所によって症状や予後も変わってくることもあります。
犬では体表のリンパ節が癌化する多中心型、猫では消化管が侵される消化器型が一般的です。
リンパ腫の治療
リンパ腫の治療は他の癌の治療と異なり、抗がん剤などの化学療法が主体となります。
現在のところ、一般的な治療指針としては、腫大したリンパ節から針生検にて採材したのち、病理検査及び遺伝子検査によって、悪性度とともにT細胞性なのかB細胞性なのかを調べてから治療に入ります。
一般的には多剤併用といって数種類の抗がん剤を合わせて投薬していきます。
1種類の抗がん剤だけでは癌細胞が耐性をつけやすく、すぐに治療が破たんしてしまうからです。
リンパ腫の治療には数種類のプロトコールと呼ばれる投薬方法があり、検査の結果から推奨される方法を選択していきます。
セカンドセレクトでもリンパ腫の治療は行っており、数種類の薬剤は常時取り揃えています。
代表的な抗がん剤のプロトコールで治療を行った場合、約半年程度の治療期間になり、料金としては30~40万程度になることが多いと思います。
なぜ抗がん剤は副作用が出る?
抗がん剤は多くの種類がありますが、基本的には細胞の核分裂を阻止し、細胞分裂を停止させるというのが薬のコンセプトになります。
癌細胞のような細胞分裂が盛んな細胞はより抗がん剤の作用が効きやすいのですが、正常な細胞でも細胞分裂が盛んな組織では影響を受けやすいため副作用が発現します。
有名な副作用としては毛が抜けるというものがありますが、毛根の細胞は分裂が盛んなため抗がん剤の影響が出やすいため起こります。
また胃腸の粘膜や骨髄の細胞なども影響が受けやすい組織のであり、胃腸障害や骨髄抑制は抗がん剤でよくみられる副作用です。
この中でも骨髄抑制は最も頻繁で、最も致死的になる可能性がある副作用です。
特に白血球と言われる免疫を担う細胞も骨髄から産生されるのですが、抗がん剤の影響を非常に受けやすく、抗がん剤投与後に血球数が著しく低下することは頻繁に起こる副作用です。
免疫力の低下とともに敗血症といって、大抵は腸内雑菌の毒素もしくは呼吸器の感染を容易に起こし、細菌が血流にのって全身性に感染を起こしてしまうことがあります。
この場合は状況は極めて深刻化することも多く、抗がん剤を使用する上では常に注意を払う必要があるため、頻繁に血球数を計測しながら治療は勧めていきます。
抗がん剤の使用には確立したプロトコールが多くあるため、副作用が出た場合の対処法も決まっています。
また致死的な副作用が出ることはまれなため、実際には副作用が重篤に出るために治療を断念する飼い主様はほとんどいません。
ちなみに人間の場合は抗がん剤の副作用の発現率は80~100%とと言われていますが、犬や猫の場合は50%前後ともいわれています。
やっぱり抗がん剤は選択するべき?
リンパ種における治療の場合、平均余命は病気が発覚後1年と言われています。
抗癌治療を行っても癌細胞は完全に消失するわけではなく、寛解という状態に持っていくことが目的となります。
寛解とは見た目にも検査にも癌細胞の存在が見られない状態のことで、見た目は普通の健康的な状態に戻ってはいます。
ただ、寛解はずっと続くものではなく、いつかは破たんする可能性があり、その期間がおおよそ1年であるというように考えていただくのがいいと思います。
いつも思うのですが、この1年という期間をどう考えるのかが飼い主様によって、もしくは担当した獣医師によって変わってきます。
7歳の犬がリンパ腫になった場合と、15歳の老犬がリンパ腫を患った場合とでは明らかに余命の価値は変わってきます。
抗がん剤の治療をするべきか、避けるべきかというのは実際に正解があるわけではありません。
セカンドセレクトではできる限り飼い主様の意見を尊重し、癌を患った動物たちの状況を客観的に見て治療法をご提案させていただいていますので、治療に不安を感じるようなことがあれば、いつでもご相談ください。
抗がん剤以外の緩和療法は?
抗がん剤以外の治療法としてよくあげられるのが、ステロイド療法になります。
ステロイドを毎日もしくは1日おきに投与することで、それなりの効果が得られることが出来ます。
勿論ステロイド自体にも副作用はあるのですが、抗がん剤に比べると非常にマイルドなため、高齢な動物には適した治療の時もあります。
またセカンドセレクトでは制癌治療として、抗腫瘍ワクチン様の治療法も行うことがあります。
1週間に1回、ワクチンのように注射をして、癌細胞と戦う細胞の活性化を促していきます。
考え方としては生薬と同じような免疫割賦剤としての用法になりますが、薬剤としての効果が実証されているほか、副作用があまりないため、こちらもやりやすい代替治療となります。
また病状が進んだ時には往診などでご対応させていただくこともできます。
まとめ
抗がん剤を選択しないといけないような状況は誰もが望んではいないと思いますが、病気はある意味平等に発生します。
特に高齢化という要因は癌の発生率を著しく押し上げているので、誰もが癌を患う可能性をもって生活していると思います。
もしご自宅にいる犬や猫が、不幸にもリンパ腫という診断が下ってしまい不安を感じることがあれば、いつでもご相談に乗りますのでお気軽にご連絡ください。