おそらくほとんどの獣医師が「奇形」という言葉にはかなり過敏に反応すると思います。
大抵の場合、奇形はかなり幼い時期に発見されるため、色々な問題をはらんでくるからです。
一言で奇形と言ってもいろいろありますが、その後の一生に影響を及ぼすような重篤な奇形もありますし、あまり気にしなくてもいいレベルのものまで多様にあります。
最近では動物を取り扱う人たちのリテラシーもかなり向上し、飼い主様へ幼いペットを引き渡す際に、幼少期にみられる異常や奇形についてはかなり詳しく説明することが一般的になりました。
そういった若いペットでみられる奇形の中で、もっともポピュラーな奇形の一つが臍ヘルニアと呼ばれるものです。
一般的にはでべそと言われるこの奇形は、あまり重篤な奇形にはなりえませんが、なんとなく気になる奇形です。
今回はこの臍ヘルニアについてご説明したいと思います。
臍ヘルニアってそもそも何?
臍ヘルニアは一般的には「でべそ」という言葉で知られており、人間でもよくみられるものです。
胎児のときにはへその緒で母体と胎児がつながれていますが、出生時には胎盤とともに切り離され、時間とともに新生児にはへそが出来るようになります。
この時、皮膚の下の腹膜はへその形成時にしっかり閉じるのですが、脂肪やその他の腹腔内の臓器がへその周囲の組織に癒着し完全に腹膜が閉鎖しないため起こります。
大きさは豆粒大のものから親指大までさまざまですが、中にはピンポン玉大ぐらいの大きさのものまであります。
ただ、臍ヘルニアが大きいからと言って何かしらの症状が出てくることは極めてまれです。
治療法は?手術をしないとどうなる!?
人間の場合、臍ヘルニアが見られたとしても、小学校に上がる前までには自然と治癒することがほとんどで、無治療のケースが多いとされています。
また人間の新生児で臍ヘルニアが見られた場合は、テープを貼って穴を縮小させ治癒をはやめていくなどの方法をとることもあるそうですが、犬や猫の場合では一般的ではなく、基本的には手術が唯一の治療法となります。
一般的に臍ヘルニアはでべそを押すと腹腔内にすべて還納し引っ込んでしまうタイプと戻らないタイプがあります。
戻らないタイプのヘルニアを嵌頓ヘルニアと呼ぶこともあり、飛び出た組織が血流障害を起こす可能性があるため、早めに手術をした方がいいと言われています。
ぼく個人では嵌頓をおこした臍ヘルニアだったとしても、体調に影響が出るほどのものは経験がありませんが、たまに内出血を起こし、押すと痛がるようなしぐさを見せることもあるので、やはり嵌頓タイプの臍ヘルニアは手術をした方がいいと思います。
還納するタイプの臍ヘルニアも、いきなり嵌頓タイプになることもあるので、よほど麻酔のリスクが高いというわけでは無ければ、手術をすることをお勧めしています。
ただし、先ほども書いた通り、自覚症状が出ることはかなりまれなため、それほど早急に手術を受ける必要はありません。
大抵の飼い主様は、避妊や去勢手術を行う時に同時に行う方がほとんどで、臍ヘルニアの整復のみの目的で手術を行うことはあまりありません。
手術は難しい?
手術はあまり難しいものではありません。
臍ヘルニアは腹膜と癒着しているため、癒着をはがし、腹壁をきれいに縫い合わせるだけです。
腹腔内から飛び出しているものは、ほとんどが脂肪組織なので、出血も多くはありません。
手術のご費用は程度によってまちまちですが、セカンドセレクトでは避妊手術や去勢手術に合わせて行うのであれば追加のご料金として5000円から10000円程度頂いています。
ただ、避妊手術と同時に行う場合、避妊手術の切開腺と臍ヘルニアを整復する為の切開腺は別々なため、大抵は1つの大きな切開腺となり、飼い主様が想像しているよりも術創は大きくなると思います。
術創の大きさによって術後の回復や抜糸が遅れることはありませんが、見た目は少し痛そうです・・・。
まとめ
獣医学的には臍ヘルニアはそれほど重要な位置づけの病気ではなりませんが、それでもあっていいものではありません。
お腹を触ってみてポコッとしたものに気づかれたら、お気軽にご相談ください。