犬や猫の日ごろのお手入れとしては、耳掃除、爪切り、肛門腺絞りや歯磨きなどがあげられます。

恥ずかしながら、ぼくは獣医師として診察を行うまで、肛門腺というものの存在を知りませんでした。

肛門腺は独特のにおいがする分泌腺ですが、獣医師になりたての頃はこれがうまく絞れず、先輩の獣医師や看護師さんに叱られていたのを今でも思い出します。

ところでこの肛門腺ですが、たまに炎症を起こしたり、膿んだりすることがあります。

やけにお尻をよく舐めているなと思ってみたら、お尻のわきが赤く腫れあがっていることに気づき、急いで病院にやってくる飼い主様も多くらっしゃいます。

今回はよく見かける肛門腺の病気、肛門嚢炎・肛門周囲瘻についてご説明したいと思います。

そもそも肛門腺って何?

昔のぼくも含めてなのですが、動物を飼いたてもしくはあまり病院に連れて行ったことがない飼い主様にはあまりなじみのない言葉かもしれません。

一般的は肛門腺というのは、肛門嚢と呼ばれる肛門のわきにある分泌腺とそれをためている嚢上のものだと言われています。

物の名前はあまり重要でないのかもしれませんが、肛門腺というとあたかも肛門の分泌腺の様に思えますが、基本的には消化器官とは全く関係なく、獣医学的には肛門の脇のくぼみという位置づけになります。

正式名称は肛門傍洞と言うそうです。

人でも肛門傍洞は存在するのですが、動物ほど窪んではいません。

犬や猫の場合は窪みが袋状になっており、そこに独特の匂いが出る分泌物が溜まっていきます。

この肛門傍洞がもっとも発達した動物がスカンクで、よく敵を撃退するためのにおいをおならとして出すと言われていますが、おならではなく肛門傍洞にたまった分泌腺をおならのように出しているのです。

肛門嚢炎の症状

肛門嚢が炎症をおこすと、肛門嚢そのものが腫れあがり、その炎症が外側の皮膚にも波及して、赤みがかかったものになります。

動物はひどい掻痒感か、まれに疼痛を感じることもあり、食欲不振を引き起こすケースもあります。

腫れはそのうちに皮下に膿瘍を形成し、皮膚が赤黒く変色したあと自壊して中から膿が出てきます。

このあたりの時点で異変に気付く飼い主様がほとんどです。

中には夜気づき、慌てて救急病院に駆け込む飼い主様もいらっしゃいますが、命に影響することはありません。

排膿はしばらくすると落ち着きますが、動物は触られるのをひどく嫌がることが多く、自宅で消毒はなかなか困難かもしれませんので、翌朝にでもご来院してもらえれば構いません。

原因は?

よくあるのが肛門腺を定期的にしぼらないと起こると言われていますが、あまり関係はありません。

人間の場合でも犬や猫と同じ症状を起こすことがあり、痔瘻と呼ばれています。

ぼくは経験がないのですが、痔瘻は激しい痛みが伴うようで、最初は痔だと思い肛門科に行く方が多いそうです。

医学的には痔瘻は何かしらの免疫不全と考えられるケースもあり、クローン病などの膠原病の前駆症状である場合があるため、そういった検査を行う専門科を紹介されることもあります。

犬や猫では詳しくはわかっていないのですが、自己免疫が絡んでいると考えられており、炎症産物が持続的に肛門嚢内に発生していることで起こると推測されています。

犬では年齢を問わず発生し、特に多いのが普段から軟便が多いタイプや、もともとアレルギー性の疾患を持っているような犬がよく発生します。

ネコの場合はほとんどの場合、高齢になってから発症します。

肛門嚢炎の治療法

治療法は内科的な治療法と外科手術を用いる方法とがあります。

内科的な方法とは、主として消毒と抗生剤や消炎剤を注射または内服で使用して行います。

気づいたときには犬や猫がほとんど膿を舐め切ってしまっている場合もあるのですが、お尻の脇にできた穴は意外と深く、内部までしっかりと消毒しないとだめなケースもあります。

また膨らんで赤くなってい入るものの、皮膚に穴が開いていない場合には、針などで切開して排膿させる必要があります。

排膿が終われば、空いた穴は自然とふさがります。

順調であれば1週間から2週間ほどで治癒することがほとんどです。

肛門腺のトラブルで厄介なケースとして、肛門傍洞には炎症が強く起きているのにかかわらず、肛門嚢自体がしっかりと残っている場合は症状が持続的に続きます。

抗生剤をいくら使用しても内部をしっかりと洗浄できないため、血膿が肛門から出続け、強い臭いが常に出てくるので、飼い主様にとってかなりの大問題になります。

以前はこのようなケースはまめに分泌腺を搾り取り、とにかく消毒するしかありませんでした。

最近では本来外耳炎で使用する外用薬ですが、こういった症状をしっかりとおさえてくれる薬剤が出てきており、簡単に鎮静化させることが出来るようになりました

外科的な方法を用いるときは、たびたび再発するケースなどがあげられます。

全身麻酔を用いて行うため、動物の状況次第では手術が行えない場合もありますし、特に犬で多いのですが、肛門のしまりが悪くなる動物もいるため、初発から望まれる飼い主様はあまり多くはありません。

ですが、頻繁に再発を繰り返すようであれば、唯一の根治治療となるため、選択肢の一つにはいれておいても良いと思います。

まとめ

肛門嚢炎は命にかかわることはありませんが、意外と厄介な病気です。

特に高齢の猫などではかなり痛がる猫もいるので、見るのもつらいと訴える飼い主様も多くいらっしゃいます。

飼ってらっしゃるペットのお尻をふと見たとき、腫れてるかも!?と思ったら、いつでもお気軽にご相談ください。

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