肛門から出血があるというご相談は割とよく受けることがあります。

若い犬で多いのは、便に出血がついていたというご相談です。

ほとんどの場合、病的な問題は絡んでいないことが多いので、よほど下痢などしていなければ、ご様子を見ていただくことがほとんどです。

一方で中高齢機以上の犬の場合は少し様子が異なります。

便に出血が混じるというご相談も受けるのですが、「肛門付近にしこりが出来て、そこがすれて出血している」というご相談が多いと思います。

特にオス犬には多いのですが、高齢になると肛門にいくつかの種類のしこりが出来ることがよくあります。

今回はその代表的なしこりの一つ、肛門周囲腺腫についてご説明したいと思います。

肛門周囲腺とは?

肛門の周りには無数の分泌腺がありますが、肛門周囲腺はいわゆる肛門腺とは別物になりますので、下記を参考にしてください。

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肛門周囲腺は肛門の周囲にある分泌腺のことで、年を取ると肛門周りが黒くなったり、ぶつぶつが出来たりするのはこの肛門周囲腺が変化したものです。

はっきりとした役割はわかっていませんが、雄性のホルモンの影響を受けることから、肛門腺同様、自分のテリトリーを誇示するための臭い付けの分泌腺だと考えられています。

肛門周囲腺腫とは?

肛門周囲腺腫はその名の通り肛門周囲腺が腫瘍化することで起こります。

先ほども書いた通り、雄性ホルモンの影響を受けるため、発生には明確な雌雄差が見られます。

一般的には未去勢の中高齢のオス犬によくみられるもので、ある日お尻を見てみると豆粒大の小さなしこりが見つけて心配になりご来院する方が多いと思います。

基本的には良性の腫瘍だと言われていますが、メス犬に発生した場合は悪性のケースもあると言われています。

ほとんどの場合は急激に大きくなることはなく、気づいたらじんわりと出血をしていたり、かさぶたになっていることがほどんどです。

犬自身も少し気にする様子もあるため、何かしらの対応が必要になることも多くありますが、大出血をしたり、感染を起こしてひどい状態になることはほとんどないので、そこまでの心配はいりません。

手術は必要?

肛門周囲腺腫は腫瘍なので、薬でなくなることはありません。

基本的には手術による摘出が唯一の根治治療になります。

この際に、去勢手術を行っていないオス犬であれば、去勢手術を一緒に行うことで再発率を低下させれることが出来ます。

手術は表層に出ているようなしこりであれば摘出は非常に簡単です。

たまに表層ではなく、肛門の周囲の筋肉に埋もれているようにしこりが発生している場合もあり、この場合は慎重に対応する必要があります。

肛門の周囲には神経が集中しており、しかもそれは非常にわかりにくいため、術中に気づかないうちに損傷をさせてしまうことで、一時的かもしくは永続的な肛門の麻痺が起こる可能性があるからです。(めったにはないのですが・・)

ただし、実際の臨床現場では、肛門周囲腺腫のご相談は手術が出来ないような年齢の犬が多いこともあるので、手術をせずに普段のケアで様子を見ていただくことも多くあります。

どんなに簡単な手術でも基本的には全身麻酔になるのが難点だからです。

何回か経験があるのですが、表層が自潰した肛門周囲腺腫の管理がどうしてもうまくいかない超高齢犬を、局所麻酔で手術したことがあります。

基本的には再発性もあるのであまりお勧めはしていないのですが、どうしても何とかしたい、でも麻酔はかけたくないという飼い主様がいらっしゃいましたら、いつでもご相談くさい。

様子を見ていたら巨大化した!?

肛門周囲腺腫に似たような場所に起こる腫瘍で、アポクリン腺癌というものがあります。

こちらはいわゆる肛門腺の腫瘍になりますが、肛門周囲腺腫に比べ悪性度が極めて高く、周りのリンパ節にも転移を起こす厄介な癌です。

大きさもかなり大きくなることもあります。

見て目ではあまり区別がつかないことも多いので、肛門腺がある場所に何かしらのしこりが出来た場合は、細胞の検査までは行った方が無難だと思います。

まとめ

自分の飼っているペットの肛門をまじまじと見る機会はないと思いますが、割とお尻を拭く機会は多いと思います。

お尻を拭いた時にふと出血に気づき、肛門にしこりがあることに気づいたら・・・慌てる必要はありませんが、いつでもご相談に来てください。

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