よく診察室でペットの歯のことが話題になると、「犬や猫に虫歯はあるのですか?」と聞かれることがあります。
虫歯とは口腔内雑菌の中の一つであるミュータンス菌が作り出す酸によって歯が溶けることによっておこります。
ペットの歯を溶かすような菌は存在しないため、虫歯は犬・猫には起こりません。
ただしミュータンス菌以外の口内雑菌は存在するため、歯周病はかなり多いと思います。
実際の中高齢以上の犬や猫の95%は歯周病を起こしていると言われています。
歯周病を起こす雑菌は「プラーク」という細菌の塊を形成し、それがやがて歯石となります。
歯石の下側では雑菌が絶え間なく繁殖していくので、歯槽膿漏により歯肉が退行して、歯が何かの拍子でどんどん抜けていってしまいます。
犬や猫にとって歯は基本的に抜けてもあまり支障はありません。
逆に殺菌の感染を起こしても抜けないような歯の根の方には膿瘍を形成し、犬や猫の顔を腫れあがらします。
顔の腫れは数時間で起こるため、飼い主様が慌てて動物病院にいらっしゃるのもしばしばです。
今回の記事では歯が原因で顔が腫れてしまう病気、「歯根膿瘍」についてご説明したいと思います。
歯根膿瘍とは?その症状
歯根膿瘍とはその名の通り歯の歯根部に膿がたまる病気です。
一般的には小さな歯ではなく大きな歯の根の方が感染を起こした時に膿がたまりやすくなります。
犬で言えばこの歯。
猫で言えばこの歯。
これらの歯が歯根膿瘍を起こすと、たいていの場合は目の下の頬の部分が腫れてくるようになります。
最初は炎症だけなのですが、歯の根で発生した膿がどんどん皮膚の下にも広がり、何かの拍子で皮膚を突き破り、排膿してきます。
たいていの飼い主様はこの時に犬や猫の症状に気づくことが多く、慌てていらっしゃいます。
見た目は痛そうですが、あまり犬や猫の調子を崩すことはありませんのであまり心配はいりません。
歯根膿瘍の治療・・抜歯
抜歯は歯根膿瘍を起こした時の唯一の根治療法となります。
歯根は一度感染を起こすと感染巣は完全には消失ないため、感染を起こしている歯を抜歯することで急速に治癒に向かいます。
たいていの場合、抜歯を行っても採食行動に変化はなく、抜歯後も特別なケアは必要ありません。
ただし、抜歯には全身麻酔が必要なためそのリスクが治療には含まれます。
全身麻酔が使用できないような個体では、抜歯という選択肢をとることができないこともあります。
また、1本を抜歯するだけでも、事前の術前検査も必要になるため、意外と費用がかかります。
ですが、全身麻酔下での歯石除去を行うことができるほか、腫れてはいないが膿瘍を形成している歯も同時に抜歯することもできるため、将来的な予防を含めたケアが可能になります。
それほど高齢でなく一般状態も良好であれば、積極的に考えてもいいと思います。
歯根膿瘍の治療・・温存療法
温存療法は全身麻酔がかけられないような高齢なペットでは選択される治療法です。
主に抗生剤や消炎剤を用いて、内科的に感染を抑えていきます。
皮下に膿瘍を形成している場合は、注射針などで皮膚に小切開をいれて排膿させます。
3日から1週間ほどでほぼ沈静化しますが、感染巣は完全に消失しないため再発が割と高確率で起こります。
可能であれば、無麻酔で歯石除去などを行うことによりできる限りの予防をすることはできますが、基本的には再発はま逃れないことが多いと思います。
予防法
口腔内ケアは歯根膿瘍を効果的に予防することはできます。
理想はご自宅で朝晩で歯にブラシをかけて食物の残渣などが残らないようにしていただくのがいいと思います。
それが不可能であれば、定期的に病院に連れてきていただき、院内でデンタルケアを行うのがいいと思います。
先ほども書きましたが、セカンドセレクトでは無麻酔でも歯石除去を行うことが出来ますので、お気軽にご相談いただければと思います。
まとめ
歯は犬や猫などの肉食動物のトレードマークです。
できることとであれば年をとっても歯はできる限り温存しておきたいもの。
セカンドセレクトではデンタルケアを含め、日常のケアは積極的にお勧めしています。
歯根膿瘍に限らず、口腔内に何か異常を感じることがあったら・・いつでもお気軽にご相談ください。