生き物の消化管というのは非常に芸術的にできていると思います。
食べ物をただ消化するといっても、その過程の中には様々な臓器や酵素、ホルモンや化学物質などが関与しています。
そのため、消化器官は非常に複雑な構造をもち、お互いに連絡を取り合いながら日々体のために栄養を吸収しています。
そんな消化器臓器の中で、たまに不要?と言われる臓器があります。
人間では虫垂というのはその代表格になっていますが、胆嚢と呼ばれる臓器もたまに不要なのですか?とご質問を受けることがあります。
胆嚢という臓器は飼い主様の皆様も聞いたことはあると思いますが、実際にどんな役割をしているのか、どんな病気をするのかはあまりよく知らない方もいらっしゃると思います。
今回の記事ではそんな胆嚢のよくみられる病気についてご説明したいと思います。
そもそも胆嚢とは?
胆嚢は肝臓に隣接している袋状の臓器で、胆汁を濃縮し貯留しています。
胆汁自体は肝臓で合成され細い管を通って胆嚢に運ばれたあと、胆嚢と十二指腸をつなぐやや太めの管を通って消化管内に分泌されます。
胆汁自身には消化酵素を含んでいるわけではありませんが、胃の中で強烈な酸によって分解された食物を中和させ、膵臓から出る消化酵素がうまく働けるような環境に整えます。
胆嚢自体は胆汁を合成することはなく、ただただ貯蔵する臓器に過ぎないのですが、肝臓から送られてくる胆汁を濃縮し、効率よく分泌させることで食べ物の消化吸収を助ける重要な役割を担っています。
ただし、胆汁はその性状がやや安定しずらく、また色々な影響を受けやすいため、本来は液体である胆汁が胆嚢内でほかのものに変化するため様々な疾患をおこしやすい臓器です。
胆嚢粘液嚢腫
胆嚢粘液嚢腫は胆汁が「スライム」のようなゲル状のものに性状が変わったものをいいます。
なぜそのように変化するかは今のところわかってはいませんが、胆嚢粘液嚢腫は一般的な診療でもよくみられる症状で、エコー検査などで簡単に診断することができます。
胆嚢粘液嚢腫が胆嚢内にあったとしても、ほとんどの場合は無症状であることが多く、たいていの場合は健康診断の一環として行ったエコー検査で発見されることが多いと思います。
先ほども書きましたが、胆嚢は胆汁を貯留している袋でしかないので、胆嚢内に発生したゲル状の物質が体に影響を与えることはあまりありません。
ただし、このゲル状の物質は流動性に乏しいために、胆嚢と十二指腸を結ぶ胆管を詰まらせてしまうことがあります。
胆管が閉塞してしまうと、急性に症状が出始め、嘔吐や腹部疼痛が激しく、また肝機能の低下と黄疸が頻発します。
点滴などの内科治療に反応することもありますが、完全に閉塞してしまうと胆嚢破裂や胆管破裂などの症状を引き起こすため、獣医医療の中でも緊急対応が必要な疾患の一つになるため、獣医師によっては、発見次第手術を進める先生もいます。
ただ個人的な意見で言えば、症状としてあらわれないことも多く、また現在の獣医医療では手術もしくは術後の安全性が完全に担保されている状況ではないので、そこまで積極的な予防的手術はお勧めしていません。
胆石症
胆石症は人間の場合あよく聞く言葉ですが、犬の場合はほかの胆嚢疾患に比べればそれほど多くないように思えます。
胆石は胆汁の成分が結晶化して石のように固まるのですが、胆嚢粘液嚢腫同様、胆石が胆嚢内にとどまっている限りは症状はありません。
胆嚢内にできた無数の胆石が胆嚢と十二指腸を結ぶ胆管内に入り込み、胆管を閉塞した場合に症状が出始めます。
胆管が閉塞した場合の症状はつまったものが何であっても症状は酷似しており、激烈で状況の悪化もはやいために緊急対応が必要です。
また胆石が肝臓の中にできることもあり、これら胆嚢外にできた胆石は通常摘出すら困難ですが症状にはあまりでません。
胆泥症
胆泥症は胆嚢内にみられる以上の中で最も一般的にみられる異常です。
統計上はシニアの世代に入った犬の50%の胆嚢内には胆泥があるとされる報告もあります。
胆石のように胆汁が結晶化することにより細かい砂のような正常になりますが、胆管を閉塞させることはほとんどないため、あまり治療をしないことがほとんどです。
僕自身も診察で発見してもあまり治療しないことが多く、利胆剤を実際に使用しても何の変化も見られないことが多いと思います。
何かしらの大きな病気に発展する可能性はほとんどないので、経過のみ見るだけでもいいと思います。
胆嚢内の疾患を予防するためには?
一つは腸内環境を整えることが予防になるとされており、良質な繊維を含んだ食事を与えることだと思います。
また低脂肪食もこういった疾患の予防になるとされているので、極力脂肪分を抑えた食事を選ぶのがいいと思います。
また、ある種のサプリメントが良いということが以前言われていました。
僕自身の処方した感想は、正直、効果の判定はしにくかったので何とも言い難いですが、獣医師や薬を販売している業者さんたちの評判はかなり高いものでしたので、試してみる価値はあると思います。
まとめ
今回ご説明させていただいた、胆嚢粘液嚢腫、胆石症、胆泥症など胆嚢内に異物を形成する疾患は日常的によくみられる疾患です。
よく言われるのですが、こういった異物が胆嚢内にできている時点で胆嚢はその役目を全うすることができない不要な臓器になってしまうと考えられています。
ですが、だからと言ってすぐに積極的に対応する必要は個人的にはあまりないかなと思います。
それでも異常が見つかったら心配になってしまうのが人の常。
ご心配事、ご相談事がありましたら、お気兼ねなくご連絡ください。