よく言われる話なのですが、獣医医療は日に日に進歩しており、治療だけでなく検査の方法も改善され、以前より見つかりにくい病気を検出できる機会が増えてきました。

ただ、たいていの場合は人間の医療を模倣して行っていくので、結果として人間と同じような病気が多く見つかるようになったというのが実情だと思います。

結果的に動物病院ではよくある話なのですが、移る病気でもないのですが、飼い主様と飼っているペットが同じ病気になるという不思議な現象をよく見かけることがあります。

そういった病気の中で、よくみられるのが甲状腺機能低下症という病気です。

今回の記事では甲状腺機能低下症について、また人間と同じところと違うところなどをご説明したいと思います。

甲状腺機能低下症ってどんな病気?

甲状腺機能低下症とは、甲状腺と呼ばれる首ののどぼとけ辺りにあるホルモンを分泌する器官の機能が低下する病気です。

甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは全身の代謝をつかさどるホルモンで、ほぼすべての臓器の細胞を刺激しその動きを活発にします。

甲状腺機能低下症はこの甲状腺ホルモンの量が少なくなるため、全身の細胞の生理活性が落ちるため、様々な症状が出てきます。

人間の、特に女性の方でも多い病気で、更年期障害だと思って病院に行ったら実は甲状腺機能低下症だったと診断されるぐらい、典型的な自覚症状はあまりない病気で、別名「橋本病」と言われています。

人間の症状と同様に、食欲減退や倦怠感、肥満傾向になるほか、症状として特徴的なのは、被毛のつやがなくなり脱毛を起こし、また細菌感染を起こしやすくなるので皮膚炎を併発します。

皮膚病の伴わない甲状腺機能低下症は存在しない考えている獣医師もいるので、甲状腺機能低下症を患った可能性があるかどうかは、皮膚病の有り無しが一つの目安になると思います。

そのほか、繁殖障害、腸の蠕動運動の障害、神経症状など様々な症状がありますが、あまり一般的ではなく、やはり皮膚病に焦点をあてることがほとんどです。

甲状腺機能低下症の原因と検査方法は?

甲状腺機能低下症の原因は色々なことが言われてはいますが、人間の場合は基本的には膠原病の一種で、自分の免疫系の過剰な働きにより甲状腺が破壊され、機能が低下することによって起こるといわれています。

これは犬でもおおよそ同じと考えられています。

ただし、柴犬やゴールデンレトリバーなどの好発犬種が存在しているので、遺伝的な背景もあると考えられています。

まれに甲状腺に腫瘍が存在していることもあり、その場合は甲状腺があるのどのあたりが大きく膨らんでくるので、もし触って「?」というようなことがあれば一度ご来院ください。

症状は緩慢に進むことが多く、初期段階では困ったことに甲状腺機能低下症を確定診断する方法はありません。

一般的に甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの血中濃度を調べるのですが、個体差が大きく、基準値と呼ばれる値もかなり幅があります。

明らかに甲状腺ホルモンの量が少ない場合は診断がつけやすいのですが、基準値のボーダーライン上の値にになることも多く、割とグレーな感じの診断になることが多いと思います。

またそれまでに使用した薬剤、特にステロイドなどを使用していた場合、見かけ上の値が低くなり、検査をしても異常かどうかを判断するのがより難しくなります。

ですので臨床的には、甲状腺機能低下症と判断された場合、治療を3か月程度続けてみて、明確な改善があるかどうかで、最終的に甲状腺機能低下症だったのかどうか見ていくのが普通です。

治療法は?完治する?

残念ながら一度機能が失われた甲状腺は回復することはないので、不足している甲状腺ホルモンを内服にて投薬していくのが基本的な治療法です。

そのため、甲状腺機能低下症の治療は投薬が一生涯続きますので、投薬が困難な犬に関しては治療が難航するケースもあります。

甲状腺のホルモン剤は数種類あるのですが、ほとんどの場合人間用の甲状腺ホルモン剤を使用していきます。

副作用は?とよく聞かれことがるのですが、人間と犬の甲状腺機能低下症は機能が低下する場所が少し異なるため、主に人間に使用する甲状腺ホルモン剤は副作用が出やすいのですが、犬の場合は副作用はほとんどないと言われています。

個人的な経験則でいえば、副作用は全くないというわけではなく、甲状腺ホルモン剤を適正の量で与えていても、異常行動をとる犬もみられることもあります。

また、過剰な甲状腺ホルモン剤の投与は心疾患を引き起こす可能性があると言われていますのでいずれにしても注意は必要です。

ただ、他の慢性疾患と比べると割と治療のしやすい病気だとは思いますし、甲状腺のホルモン剤もそれほど高価なものではありません。

最近では動物薬としてシロップタイプの甲状腺の薬も販売されるようになり、投薬もしやすくなりました。

毎日の投薬はとても大変だとは思いますが、しっかりと治療をすれば活動性がかなり戻ってくることも多く、2歳ぐらい若返ったような実感も多く感じる思います。

まとめ

どんな病気でも生涯にわたり治療が必要な病気の管理は大変だと思います。

月並みな書き方にはなりますが、セカンドセレクトではできるだけ飼い主様のご負担を抑える形で治療を進めていきます。

もし治療や検査などで何がご不明な点がありました、いつでもお問い合わせください。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう