こんにちは、セカンドセレクト獣医師の斉藤です。

多くの獣医師が犬や猫、ウサギでも若い年齢での去勢手術や避妊手術を勧めています。

理由としてはしつけがしやすくなるということだけではなく、中高齢になってから去勢手術や避妊手術を行っていないがゆえのなりやすい病気がいくつかあるからです。

もちろん、去勢手術や避妊手術を受けたがゆえのデメリットもあるのですが、それでも相対的に去勢手術や避妊手術を行った方が病気になる確率は少ないのかもしれません。

今回の記事ではそんな去勢手術を行わなかった中高齢の犬によくみられる前立腺の病気についてご説明したいと思います。

前立腺とは?

前立腺とは雄性の動物にみられる副生殖器官です。

前立腺は精液の主成分の一つであり、精子に栄養源を与えるための役割をしています。

前立腺は右葉、左葉と分かれており、膀胱から伸びた尿道の周囲を巻き込むような臓器で、射精時に精液を尿道に送り込みます。

人間の男性にも前立腺はあるのですが、ネコ科の動物など動物種によっては前立腺を持たない動物もいます。

一方で犬ではよく発達した前立腺を持っており、未去勢のオス犬ではたびたび問題になることがあります。

前立腺の病気について

前立腺にはいくつかの病気があるのですが、症状に乏しいことが多く、発見が遅れることがよくあります。

何かしらの変化があった場合は、腹部を触診するか、直腸検査を行って指で触知するかで仮診断を容易にすることが出来ますが、レントゲン検査とエコー検査を行ってさらに詳しい診断します。

ただし、画像診断のみでは異常と思われる前立腺がどのような病気になっているのかを確定診断することはできません。

たいていの病気の場合、確定診断を行うためによくやられる診断方法は針生検などによる病理診断なのですが、前立腺は非常にナイーブな臓器で、針を刺すことにより発熱や炎症、疼痛などが出てくるリスクがあるため、一般的には行いません。

ここが前立腺の病気の診断を困難にする一つの要因となっています。

前立腺肥大

前立腺肥大は未去勢のオス犬では頻繁におこる症状です。

自覚症状は乏しく、生理的な変化であり、治療はほとんど必要ありません。

エコー上では左右均等に前立腺が大きくなるため、診断は割とつけやすいと思います。

ただ、前立腺自体は去勢をせずにいれば他の病気にかかりやすくはなるため、定期的に検査をしておく必要はあると思います。

前立腺嚢胞

前立腺の組織の一部が変化し、水泡が溜まってしまう症状です。

肝臓にできる肝嚢胞、腎臓にできる腎嚢胞などと同様、あまり自覚症状はないのですが、たまに薄い血が尿に混じることがあります。

この場合、膀胱炎による出血と区別がつきにくく、止血剤などを使用しては止まってもすぐに再発を繰り返すケースが多いと思います。

前立腺炎・前立腺膿瘍

前立腺尿が路から細菌の感染を起こす病気です。

前立腺膿瘍にかかった犬は、疼痛や発熱が見られ、食欲不振も多くみられます。

尿に血が混じることも多く、再発を繰り返します。

前立腺癌

膵臓癌に代表されるいくつかの癌はサイレントキラーと呼ばれ、初期段階では自覚症状に乏しく、何かしらの症状や異常が見られた時には進行がかなり進んでいるタイプの癌です。

前立腺癌もまさしくそのようなサイレントキラーであり、発見時には転移が周囲に起こっていることも多く、病状の進行は非常に速いとされています。

先に書いたように生検はリスクがあるため、あまり積極的には行われません。

尿検査などを行うと腫瘍の細胞が発見されることもあります。

また持続的な血尿や、下腹部の疼痛、周囲の転移像などから判断します。

治療法は?

もし麻酔をかけることができるような状況であれば、去勢手術を行うのが最も効果的な治療法です。

前立腺の疾患が見つかった、もしくは疑われる場合には、どのような病態であっても去勢手術は積極的に検討します。

前立腺は精巣から分泌される雄性ホルモンに大きく影響を受け病状を助長させる他、精巣を摘出すると前立腺自体も委縮していくため、再発を防止する効果もあります。

病巣となった前立腺の摘出は基本的にはあまり行われません。

前立腺は尿道を巻き込むような位置にあるため、完全摘出が非常に困難であるからです。

もし去勢手術が行えない、もしくは行いたくないのであればホルモン療法もあるのですが、肝臓などに大きな副作用が出やすいため注意が必要です。

抗生剤や鎮痛剤などを併用しながら経過を見ていくのですが、未去勢のオスの前立腺の疾患は再発性も多く、また持続的に症状がみられるため、投薬はかなり長期的になることがほとんどです。

一方で前立腺癌の場合は去勢手術を行っても症状の改善は期待できません。

有効な治療法はあまりないため、緩和療法にて経過を観察していきます。

残念なことに予後はあまりよくなく、排尿障害や排便障害もおこるため、前立腺癌にかかった犬たちの生活の質を維持することさえ困難なケースもよく見られます。

まとめ

獣医師としては予防できる病気があるということはとても幸運なことだと思います。

特に去勢手術はそれほど危険性をはらんでいるわけでもなく、かつ簡易的に行うことができるので、個人的な意見としてもやはり去勢手術は行うことをお勧めしています。

いずれにしても去勢手術を行わなかった中高齢の犬にもし血尿が見られたら・・・前立腺の病気は疑ってもいいかもしれません。

その時にはいつでもご来院下さい。