特にメス犬での話になるのですが、陰部からは様々な分泌物が垂れてきます。
避妊をしていない発情中の犬では出血がよく見られますし、粘着性のある透明な分泌物が陰部周りによくつくこともあります。
これらは生理的なものであり、特に問題はないのですが、逆に注意しないといけない分泌物は、それが膿性のものの場合です。
子宮蓄膿症という未避妊の犬で起こる代表的な疾患がありますが、この場合は大量の膿が陰部からみられることが多くあります。
子宮蓄膿症は時に犬の体調をかなり悪くし、致死的な状態に陥ることもあるため、多くの獣医師がその予防手段になる避妊手術をお勧めしています。
一方で避妊したにもかかわらず、陰部から膿が大量に出てくることもあります。
多くの飼い主様が心配になってご来院されるのですが、たいていの場合は膣炎と呼ばれるもので、犬の体調にはあまり影響が出ないことがほとんどです。
ただし持続的に、かつ多量に膿が分泌されるので、飼い主様にとってはあまり喜ばしいものではないことは確かです。
今回はそんな膣炎についてご説明したいと思います。
膣炎の原因は?
当然と言えば当然ですが、膣炎の原因は膣内で細菌が異常に繁殖することによって起こります。
もともと外陰部から膣にかけては尿道がつながっているため、構造上の比較的細菌の影響を受けやすい場所になります。
通常時は局所免疫により細菌の影響を最低限に抑えこんでいるのですが、何かしらの原因により免疫力が低下し細菌が繁殖しやすい状況になり症状が顕在化します。
免疫力の低下を引き起こす原因としては、構造上の奇形や膣のポリープなどの腫瘍の存在や、異物の迷入などがよくある原因です。
こうした病的な要因以外にも、ただただ年齢的に高齢になり免疫力が低下するだけで膣炎を起こすこともあり、特におむつなどをしている高齢犬には頻繁によく見られます。
ただ同様に膣から膿が出てくる子宮蓄膿症と異なり、膣炎の場合は繁殖した細菌の影響が全身に出ることはほとんどないため、膣から膿が出ていることを除けば、健康状態はあまり普段と変わらないことが多いと思います。
意外と治りにくい膣炎
あまり強い症状が出ないとは言っても、治療をするという点では意外と大変なことがよくあります。
皮膚など細菌が繁殖する場所が体の表面であれば消毒が非常にしやすく、薬剤を使用しなくても細菌の数のコントロールができることもあります。
一方で膣のように体の内部に、そして筒状の形状をしているものは外からの消毒がしにくく、かつ細菌が繁殖しやすい構造となっているため、清潔に保つだけでは病状は回復しません。
ちなみにこれは外耳や口腔内でも言えることで、こういった体の「くぼみ」で起こった細菌の繁殖は非常に厄介であり、完全に抑え込むためには様々な方法をとる必要があります。
細菌の繁殖を抑えるためには抗生剤を使用するのですが、膣炎の場合は抗生剤の影響が受けにくい場所であり、かつ犬自身の何らかの問題も絡んでいるため、病状を完全に抑え込むことができないことが圧倒的に多いと思います。
セカンドセレクトでは難治性の膣炎に対し、薬剤感受性の試験などを行い、抗生剤を選択していくこともありますが、あまり結果をよく反映しないこともよくあります。
したがって特に高齢犬が膣炎を起こした場合など、膣内を洗浄する方法をご指導し、ご自宅で飼い主様に行っていただくことをお勧めしています。
頻回の洗浄により、とりあえずの飼い主様にとって煩わしい症状はかなり軽減されるようになります。
まとめ
本人の体調に影響しない病気というのは色々あるのですが、膣炎の場合は陰部から垂れてきた膿により、陰部周りが2次的な皮膚炎を起こしたり、自宅の環境が膿で汚れてしまったりなど厄介なものです。
セカンドセレクトでは病院内でももちろん、往診でもこういった困った病気とうまく付き合う方法をサポートいたしますので、何かお困りのことがあればお気兼ねなくご連絡下さい。