人間でもペットでも慢性疾患というものは色々あります。
ペットも高齢化が進んでいるため、以前に比べて慢性疾患は多くなっているのですが、その代表的なものとして挙げられるのは、腎不全だと思います。
慢性腎不全は様々な原因でなるのですが、特に犬の場合は糸球体腎炎というのが最初に起こり、慢性化していくことが多いと言われています。
ちょっと聞きなれない病気かもしれませんが、今回は糸球体腎炎についてご説明したいと思います。
まず糸球体って?
多くの方がご存じの通り、腎臓は尿を生成する臓器です。
体の中でたまった老廃物は血液によって腎臓に運ばれ、尿として体の外に排出されます。
腎臓に向かう太い動脈は腎臓の中に入ると急に血管の直径を狭くしながら無数に枝分かれしていき、最終的には数ミクロの細い毛細血管となり腎臓の中に入り込んでいきます。
腎臓の中に入り込んだ毛細血管は細くなったうえに束になっているため、血管内には圧がかかります。
この圧により、血液内に溶け込んだ老廃物を濾しだし、尿の原料となるものが腎臓に渡されます。
この血管が束になった構造をしている場所が糸球体と呼ばれる場所で、人間であれば一つの腎臓に100万個、犬であれば40万個、猫では20万個ほどあると言われています。
糸球体腎炎とは?
糸球体腎炎は体のどこかで発生した何かしらの炎症反応によって作られた免疫タンパクが、最終的に腎臓へと運ばれた際に糸球体の血管に沈着することで起こります。
何かしらの炎症とは特殊な膠原病によって引き起こされることもありますが、ほとんどの場合は特別なものではなく、一般的な重度の細菌感染からも免疫タンパクは全身に放出されます。
こうして発生した免疫タンパクは、沈着した血管壁で強い炎症を起こす原因となります。
特にすべての血液は腎臓に運ばれるうえ、腎臓の糸球体にある血管は細く血圧が高いため、免疫タンパクが血管壁に沈着しやすく、炎症を引き起こしやすくなります。
炎症が起きた糸球体が損傷されると、その糸球体内での圧が異常に高まり、本来は糸球体から濾されることがないようなタンパク質が腎臓へろ過されるようになります。
したがって、糸球体腎炎の一つの特徴としてはタンパク尿が見れることがあげられます。
持続的な糸球体の損傷が続くと、糸球体とそれに付随する腎臓の微細な組織は他の組織に置き換わってしまい、もう元の尿を生成できる緻密な構造は失われてしまいます。
はじめのうちは特に大きな自覚症状はありません。
こうした糸球体の損傷が一定以上の数に及ぶと慢性腎不全として、外見上の症状としても現れ始めてきます。
また持続的なタンパク尿はネフローゼ症候群という致死的な症状を引き起こすこともあります。
ネフローゼ症候群では重度のタンパク尿のため、血液中のタンパク量が少なくなり、全身性の浮腫が見られたり、全身性の高血圧により突然の失明をおこしたりするほか、急激な腎不全により一般状態が著しく低下します。
糸球体腎炎の初期段階では、外見上からはほとんどわからないため、タンパク尿が見られ始めた初期段階から治療を開始するのが必要だと考えられています。
治療法とは
教科書的には免疫タンパクが発生している原因を特定して除去をするというのが治療法と書かれているのですが、ほとんどの場合、免疫タンパクが過剰に産生されている原因は不明なことが多いため、基本的には腎不全に対する対処療法をするしかありません。
糸球体の血圧を下げる薬は以前よりいくつかあったのですが、最近ではより副作用が少ないタイプのものが製造されるようになり、治療薬の選択は増えたと思います。
また糸球体の血管の炎症を抑える薬も数年前からリリースされており、病状のコントロールに役立っています。
ただ、腎臓の組織は一度損傷を受けると回復することはないため、旧来の方法通り、可能な限り温存をしながら経過を見ていくしか方法はありません。
また腎臓用の処方食や活性炭などのたんぱく質をコントロールするサプリメントなども初期段階では有効ですが、病状が進むとタンパク質が逆に不足するため、血液検査や他の病状をみながら与える必要があります。
腎不全もさらに進み、またネフローゼ症候群を併発すると予後はとても悪くなりますが、実際のところ、緩慢に症状が進行することも多く、予後自体はそれぞれの動物によって大きく異なります。
したがって多くの獣医師が飼い主様とご相談しながら、個別に慎重に治療を進めているというのが実際です。
まとめ
慢性の病気を患うと先が見えず、終わりのない治療が続いていきます。
動物の状態が著しく低下すると、その治療が緩和治療なのか、延命治療なのか迷われる飼い主様も多くいらっしゃいます。
セカンドセレクトでは可能な限り動物にも飼い主様にも負担の少ない治療をご相談していきたいと思っておりますので、なにかご心配なことがありましたらいつでもお気軽にご相談ください。