昔に比べると大分少なくはなったのですが、自由気ままに外に出歩いている飼い猫をたまに見かけることがあります。
獣医師としては、飼っていらっしゃる猫を外に出すのはあまりお勧めではないのですが、一度外の味を覚えてしまった猫を家の中で飼うのは、意外と難しいものです。
家の外に行く猫は、この時代、色々なトラブルに巻き込まれやすいのですが、一番多いのが野良猫とけんかをして怪我をしてまうケースだと思います。
今回はこういったケンカでできてしまった傷、「咬傷」についてご説明したいと思います。
咬傷とは?
発情が盛んな時期など、多少は季節性があるのですが、特にオス猫同志はよくケンカをします。
爪による傷跡は結構目立ちますが、傷は浅く、化膿することなどはほとんどないので、目などに入らなさえすれば問題にはなりません。
一方、猫の牙は鋭くとがっているので、咬傷によりできた傷は見た目以上に深いことが多く、また口内雑菌によって皮膚の下に膿瘍を形成します。
特に猫の皮下組織は空間が生まれやすく、化膿が広範囲に広がることがあります。
咬まれてから数日たって膨らみ始めるので、最初は気づかないことが多く、ほとんどの飼い主様は、皮膚の一部が自壊し、膿が皮膚の外に出始めて症状に気づきます。
また、咬まれた場所の特定は難しいので、中には腫れる前に発熱し、食欲不振、元気低下などの症状が出ることもあります。
化膿してしまったら
もし化膿してしまったら、内服薬だけで治癒するには非常に多くの時間がかかります。
たいていの場合は、皮膚に小切開をいれたうえで消毒を念入りに行う必要があります。
大人しい猫であれば消毒も念入りに行うことができるので、数回の消毒で済むことが多いのですが、痛みもあるので暴れてしまうような猫の場合は、十分に消毒できないこともよくあります。
そういった場合は鎮静剤を使用して消毒を行います。
よほどの場合でなければ、それほど治癒までには時間はかからないのですが、尾や足先などが化膿した場合皮膚が脱落するケースもあるので、皮膚の再生を待たないといけない分、完治までの時間が長くかかります。
膿胸になった場合
胸をかまれた場合、その咬み傷が皮膚を貫くだけでなく、胸の筋肉を貫通してしまったために、胸腔内に化膿した貯留液が充満してしまうことがあります。
この場合は、呼吸状態が著しく悪化するため緊急の対応が必要です。
すぐに酸素をかがせ、胸腔にある膿を吸引する必要があるからです。
さすがに往診で対応できるような案件ではないため、外に出るような猫の呼吸が苦しそうであれば、お近くの動物病院に行くことをお勧めします。
まとめ
猫の同志のケンカによる傷はよくある事故なのですが、残念ながら自然治癒はほとんどありません。
時間がたてばたつほど厄介な傷になっていくので、できるだけ早めの受診が必要となります。
ただ、たいていの場合は、外に行くような猫を動物病院に連れて行くのは難しいと思います。
そういった場合は、往診でも咬傷の対応は十分可能ですので、一度往診獣医師と怪我の状況をよく相談し、対応してください。