病気というものは、ある意味平等にどんな動物でも一定の確率で発生します。
発生する確率に影響する要因は年齢であったり、犬種、猫種、基礎疾患があるのかなどがあげられます。
今回ご説明させて頂きたい「乳腺腫瘍」は雌雄差で発生する確率が非常に異なります。
オスではまれであり、メスでは特に未避妊の動物で多いこの腫瘍は、動物病院でもよく見かける腫瘍になります。
乳腺腫瘍に関して多いご質問の一つとして、「悪性なのかどうなのか」というご質問と「手術をした方がいいのか」というご質問を非常に多く受けます。
年齢のその他の要因で対応も異なるのですが、今回はこのあたりも含めてご説明したいと思います。
避妊手術が唯一の予防法
乳腺は卵巣から出るホルモンに大きく影響を受けます。
このホルモンはもともと乳腺を刺激して活発化させる役割を果たしているのですが、中高齢を過ぎると刺激を受けた乳腺が腫瘍に変化を起こし、しこりが見られるようになります。
一度刺激を受けた乳腺は時間が経過してから腫瘍化していくため、卵巣からホルモンが分泌される前、すなわち初回発情前に避妊手術を行えば、乳腺腫瘍の発生はほぼ100%防ぐことが出来ます。
特に犬のような発情が季節的にみられる動物は、避妊手術前に起こった発情の回数に比例して乳腺腫瘍の発生のリスクが高まることが知られています。
一般的には4回目以降の発情、年齢で言えば3歳以降になって行った避妊手術には乳腺腫瘍の発生を予防する効果はほとんどないと言われています。
出来た乳腺腫瘍が悪性かどうか調べる方法は?
体にできた一般的なしこりが悪性かどうか調べるためには、そのしこりの細胞を取って顕微鏡で観察する病理検査が必要です。
しこり全体を調べるためにはしこりを摘出しないといけないため全身麻酔が必要となるので、術前検査として行うことはできません。
したがってよく行う方法としては、注射器の針でしこりの一部を吸引し、採取された細胞から判断していきます。
この方法は簡易的に行うことができるのですが、悪性なのかどうかを判断するには情報量が不足していることがよくあります。
特に乳腺腫瘍の場合は、乳腺組織の様々な部分が癌化する可能性があるため、針生検での病理診断では悪性かどうかをはっきりと診断をつけるのは難しい場合もあります。
そのうえ、良性の乳腺腫瘍でも前癌物質と呼ばれ、加齢とともに癌化することもあるので、病理診断の結果によらず手術を勧められる場合が多いと思います。
ちなみに犬の場合は良性と悪性の割合は50%、猫の場合は90%以上が悪性と言われています。
手術は必要?
基本的に年齢的な問題がなく、一般状態に不安要素がないのであれば、手術は積極的に検討してもいいと思います。
具体的に年齢的な制限というものはないのですが、猫もしくは小型、中型犬の10歳以下であれば年齢によるリスクというものは若い個体と比べてもそれほど変わりはないと思います。
術前に行いたい検査としては血液検査と胸部のレントゲンです。
手術は全身麻酔を使用しますので血液検査は必須だと思います。
レントゲンは術前にすでに転移を起こしていないかどうかを調べるために行います。
転移を起こしていた場合は、見た目が元気であっても余命という観点からは手術をするメリットがあまりありません。
これらの検査で問題がなければ手術を行うか最終的なご相談に入ります。
手術の方法としてよく言われるのが、乳腺全摘といって、乳腺腫瘍が発生した周囲の場所のみを摘出するのではなく、胸部から腹部にかけての乳腺をすべて摘出する方法があります。
個人的には全摘を行ったとしても再発するリスクは残るため、乳腺腫瘍が単発であった場合は、その腫瘤の周囲のみを摘出することをお勧めしています。
乳腺全域に腫瘤が発生している場合もしくは2度目、3度目の再発の場合は、動物に負担はかかるのですが、全摘の方が適しているように思えます。
かかる費用としては、乳腺腫瘍の周囲のみの摘出であれば入院費用合わせて5万円から7万円程度、全摘出であれば10万から12万円程度になると思います。
同時に避妊手術や歯石除去をご希望された場合は、別途ご費用がかかりますが、事前にご相談いたしまのでご安心ください。
高齢で乳腺にしこりが見られた時
動物病院で乳腺腫瘍を患った動物たちを見ていると判断に迷ういくつかの問題があります。
よくある問題は、全身麻酔による手術のリスクが高そうな年齢や健康状態の動物に乳腺腫瘍が発生した場合です。
特に外見上問題はないのですが、15歳ぐらいで腫瘍が発生した場合は手術を行うべきかどうかはかなり難しい判断になります。
獣医師によって見解は異なりますが、セカンドセレクトではあまり積極的に手術を行うことはお勧めしていません。
理由としては乳腺腫瘍自体は転移さえ起らなければ、乳腺腫瘍が悪性であり大きくなったとしても、動物の健康状態を崩させることはめったにないからです。
一般的に転移を起こす乳腺腫瘍は少なくとも直径が3㎝以上と考えられており、乳腺腫瘍自体は痛みもないことがほとんどなので、3㎝以下の乳腺腫瘍を摘出するメリットは、高齢の個体にとってはあまり多くはないからです。
腫瘍が増大傾向にあった場合は、最終的には飼い主様の判断にはなるのですが、余命の長さを考えるのであれば、それほど手術を検討しないといけない場合は多くはないと思います。
抗がん剤は必要?
多くの飼い主様が一度は頭に浮かぶことが抗がん剤の使用だと思います。
ほとんどの飼い主様が少し誤解をしているのですが、手術か抗がん剤かという選択ではなく、多くの癌治療は手術をした後に抗がん剤を行うかどうか?という選択になります。
乳腺腫瘍での抗がん剤治療も同様で、手術を行った後に抗がん剤を使用します。
抗がん剤は3週間に1回、点滴による投与と飲み薬による投与を繰り返しで行っていきます。
体重にもよりますが5回から10回ぐらい行い、その後は経過を観察していきます。
心毒性があるタイプの抗がん剤を使用しますので、一般的な抗がん剤の副作用に加え、心疾患をもともと持っている動物には注意が必要です
自壊した場合・・
高齢になっても手術をするケースはいくつかあります。
乳腺腫瘍が巨大化し、自潰を起こしたもしくは起こしそうなケースです。
この場合でも動物たちはあまり苦しそうな表情を浮かべず、食欲などにはほとんど影響は出ないのですが、持続的に少量の漿液や出血がしこりから出るため、飼い主様の管理の負担は著しく増えてしまいます。
また感染を起こすと非常に強いにおいが発生します。
これも飼い主様自身の生活の質を低下させる要因になるため、泣く泣く手術を行う飼い主様もいらっしゃいます。
そのような状況でも手術という選択から回避を願う飼い主様には、包帯での保護の仕方や、臭いの原因となる細菌の発生を抑える軟膏を用いて管理する方法をご提案しています。
いずれにしても、長期間の介護が必要なるため、できる限りのご負担が出ないようなお手伝いをさせていただきますので、お気兼ねなくご相談ください。
炎症性乳癌
炎症生乳癌とは病名ではないのですが、乳腺腫瘍に激しい炎症が加わったタイプの乳癌を指します。
このタイプだけは年齢にかかわらず手術は不向きと考えられています。
理由としては乳腺腫瘍が存在している場所と正常な乳腺の境界がなく、手術によって腫瘍の転移を高確率で増長させるからです。
炎症性乳癌のだけは激しい痛みを伴うこともあり、動物の健康状態を著しく低下させる予後の悪い腫瘍です。
セカンドセレクトでもあまり画期的な治療計画をご提案することは難しいのですが、できる限り生活の質を上げるような薬や治療法がありますので、いつでもご来院ください。
まとめ
乳腺腫瘍は動物病院では珍しい症例ではありませんが、飼い主様にとっては一大事なるような大きな出来事だと思います。
飼っている犬や猫の胸を触った時に、「?」という感覚があったら・・・セカンドセレクトにご相談ください。