多くの飼い主様が飼っている犬や猫に避妊手術を行っていると思います。

病気の予防などのメリットがあるほか、特に猫では発情期になると日常生活に支障が出るほど激しいなき声がする等の理由もあります。

たまに相談を受けることがあるのですが、これらの問題行動を制するために避妊手術を行ったのにもかかわらず、術後も変わらないというお悩みをもっている飼い主様もいらっしゃいます。

確かにマーキングやマウンティングなどの行動は、手術をしても改善しないこともあります。

ただ術後に発情兆候、犬であれば陰部から出血があるとか、猫であれば発情期特有の行動や鳴き声などがなくならないということは基本的にはあり得ません。

これらの場合の多くは、避妊手術により卵巣を取り残した結果として起こることだと考えられます。

今回はセカンドセレクトにご相談があった症例をご紹介しながら、卵巣遺残についてご説明したいと思います。

卵巣の取り残しはどれくらいの確率で起こるもの?

避妊手術というものは動物病院が行う手術の中で最も行う機会が多い手術です。

その分、手術によるトラブルも多いと言われています。

もちろん致命的な医療的なミスの起こる確率は極めて低いのですが、麻酔による死亡事故や誤って尿管を損傷させてしまうなどの事故の話を聞いことは何回かあります。

そこまでの医療事故ではないものの、手術中に心拍数が突然低下する、手術中に誤って出血させてしまうなどの事故はそれなりの確率で起こりうるものであり、避妊手術をそれなりに経験している獣医師であれば、もれなくそういった場面に遭遇していると思います。

今回ご相談のあったような卵巣遺残の発生確率は、獣医師の経験値にもよるし、犬や猫の体格にも比例してきます。

内臓脂肪の多い肥満気味の犬や猫の場合、卵巣周りに脂肪が多く付着しているため、場合によっては卵巣を取り残していまいやすくなります。

たいてい卵巣遺残があるケースは肥満気味の個体が多いのですが、それでも発生頻度としてはあまり多くなく、ぼく自身が行った手術では一度も経験したことはありません。

全体的にみても万に1件ぐらいの発生頻度だと思いますが、0%でないことは確かだと思います。

対応法は?

今回、ご相談いただいた飼い主様は猫を飼育されており、他の動物病院で2年前に避妊手術を行ったのにもかかわらず、発情行動がひどく、夜も寝られないとのことでご来院されました。

基本的に猫の発情行動が起こっている最中でも避妊手術は可能であり、術後速やかに発情行動は治まります。

ですので発情行動が残ってしまっている場合の唯一の治療法は再手術を行い、残った卵巣を摘出するしかありません。

問題は取り残した卵巣はたいていとても小さく、かつ脂肪に埋もれていることもあるため、肉眼的に発見がしにくいこともあることです。

したがって理想としてはまずCT検査を行い、残っているであろう卵巣の位置と大きさを調べることが必要です。

ただ、CT検査にも全身麻酔が必要なことと、それなりの金額も必要になることから、検査をせず試験開腹という形で手術を行うことが多いと思います。

正直な話、ぼく自身は卵巣遺残の症例の執刀経験はそれほど多くはありません。

もちろん卵巣遺残の発生頻度が極めて少ないからだとは思いますが、毎回苦労した覚えがあります。

手術の内容としては卵巣へつながる動脈をたどって卵巣を検索していくのですが、腹腔内脂肪が邪魔をするため大きな術創になることもしばしばです。

今回ご依頼のあった猫でもCT検査を行わず、開腹したうえで目視で卵巣を検索することになりました。

麻酔導入後、剃毛した際に、以前に行われた手術の跡をみて思ったのですが、切開線が通常の避妊手術より大きかったので、卵巣を摘出するのに非常に苦労された印象を受けました。

写真ではわかりにくいですがみぞおちのところから骨盤のあたりまで切開線が伸びています。

通常であれば下の写真ぐらいの大きさです。

今回の猫では腹腔内脂肪は多かったのですが、動脈をたどって卵巣を検索し、無事摘出することが出来ました。

残された卵巣はほぼ通常に近い大きさをしていたのですが、卵巣自体は再生能力が著しく、一部が残っていただけでもほぼ再生します。

手術中に思いもかけないことが起こる経験はどの獣医師も経験することだと思います。

トラブルは決して「0」にはなりません。

重要なことはトラブルがあった後、正確な対応をすることであり、その対応が可能な獣医師のみが執刀するべきだとは思います。

今回の件ではどのようなトラブルがあったかはわかりませんが、摘出後に飼い主様のご報告では無事に発情はおさまったとのことでした。

まとめ

セカンドセレクトではもちろん避妊手術の執刀は数多くあります。

ちなみに猫の避妊手術であれば通常の切開線は1㎝ちょっとぐらいです。

抜糸も必要ないので、猫にとっても飼い主様にとっても負担は最小限で済むと思っています。

避妊手術に関して色々なお悩みを持っていらっしゃる飼い主様がいらっしゃいましたら、いつでもお気兼ねなくご相談ください。

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