腎不全という病気は、人間でも犬でも猫でもよく見かける病気ですが、特に猫の発生頻度はほかの動物と比べても、非常に高いと思います。
ただ腎不全の発生頻度は異なっても、動物の種類によって治療の根本が大きく変わることはありません。
腎臓は一度障害を受けると、機能が回復することはないので、治療というのは治すというよりは、温存、緩和に尽きるからです。
今回はそういった腎臓の治療において、よく飼い主様が勘違いをしていることをご説明したいと思います。
食事療法は常に必要というわけではない
腎臓用の食事というのは基本的にはたんぱく質、塩分を制限した食事です。
特にたんぱく質が多い食事は、腎臓にそのタンパクの残骸が付着し、さらなる腎不全を悪化するので、タンパクを制限した食事は腎不全の進行を抑える意味では有効です。
ただし、これはあくまでも食欲が落ちていないペットに限ります。
もし腎不全が進行して食欲が落ちている状況や、選り好みをしてしまって全く食べないような仔に腎臓用の処方食を使用していると、食べる全体量が減るために、より多く摂取するたんぱく質が制限されてしまいます。
過剰なたんぱく質の制限は、逆に腎不全の悪化を引き起こす他、貧血も悪化させるので、もし食欲がないようであれば、処方食はさけ、食べるものを食べさせた方が、状態を崩さずにいることができます。
不適切な処方食の給仕は病態を悪化させますので、処方食に固執するのはやめた方がいいと思います。
補液治療は常に必要というわけではない
皮下点滴は腎不全の動物での一般的な治療法になります。
ですが、腎不全を起こしたからといって、すぐに補液治療が必要かと言えばそうでもありません。
補液治療は腎不全により引き起こされる脱水を改善し、循環している血液の量を増やし、過剰にたまっている老廃物を体の外に排泄しやすくするためのものです。
腎不全の初期段階では、脱水もあまり進んでいることもなく、自ら飲水もできるようであれば、特に必要ありません。
逆に治療行為によって、ペットのストレスがたまることで腎不全が悪化することもありますので、過剰な治療行為は避けた方がいいと思います。
血液検査の値はそれほど正確ではない
腎不全を起こした際に腎臓の機能を調べるために、血液検査を頻繁に行うのが一般的だと思います。
尿素窒素、クレアチニンというのが一般的によく使われる検査項目ですが、必ずしも腎臓そのものの機能を表しているわけではありません。
腎臓に関する血液検査の項目は、基本的には本来排泄されるべき老廃物の量を計測し、簡易的に腎臓の機能を推測するものです。
これらの検査は採血の時間や、その他の腎臓以外の要因によってかなり変動幅がある上、体調そのものを反映しないことも多く、これらの値だけで、腎不全の先行具合を予想するのは一概には正しいとは言えません。
一方で正確な腎臓の機能を計測するためには、かなり煩雑な検査が必要となるため、あまり一般的な検査ではありません。
臨床現場では、血液検査の値よりは、動物そのものの体調を最重要視することが多く、検査結果は参考程度にしかしません。
まとめ
腎臓病は一度なると二度と治らないため、必死になって色々な方法を模索する方が多いと思います。
実際の臨床現場にいて、腎不全の症例に出あうことは非常に多いのですが、飼い主様にまず、「無理しないでくださいね」とお伝えするようにしています。
色々な情報が簡単に手に入る時代だからこそ、正しい知識で慢性疾患と付き合ってもらいたいので、この記事が一つの参考になれば幸いです。